リニア、岐阜県御嵩町での要対策土を巡る全６回のフォーラムが終了。だが予想通りだが、何も決まらなかった。ただし町もＪＲ東海も「住民の理解を得たとは思わない」とは認めたので、協議は今後も続く…

●迷った末の取材…
　今回の取材は行くべきか迷った。昨年末、リニア取材資金が尽き、自分の生活資金をつぎ込もうにも、肝心の財布が「オレをこれ以上軽くするな！」と訴えていたからだ。迷った末、行くことにした。
　リニア計画においては、トンネル掘削で、東京ドーム約50杯分もの残土が出てくるが、そのなかでも自然由来の重金属が含まれていると、地上に出て酸化したとたんに猛毒と化す「要対策土」の処理が厄介になる。ところが、リニア計画においては、この恒久処分場がただの一か所もない。あるのは「仮」置場だけ。
　「要対策土」の最初の恒久処分場になるかもしれないのが、岐阜県御嵩町だ。
　これは以前も書いたので詳細は繰り返さないが、簡単に書けば、ずっと「町は要対策土を受け入れない」と表明していた渡辺町長が突如として「受け入れを前提として協議を始める」と言い出したことから町は騒がしくなった。そして町が2022年度に始めたのが「リニア発生土置き場に関するフォーラム」（全６回）だ。



　特にフリーの井澤宏明記者が、要対策土置き場の候補地が、重要湿地であることを町は2016年に認識していたのに、それを隠していたことをスクープしてからは一気に注目を浴びた。
　そのあたりのことは　http://shuzaikoara.blog39.fc2.com/blog-entry-784.html　を参照してほしい。
　そのフォーラムの最終回が行われる。これが行く理由だった。

●「住民の理解を得た」…とは言わなかったJR東海と町
　御嵩町フォーラムでは、静岡県の「環境保全連絡会議」のように、学識者が正面から疑問や意見をぶつけ、JR東海の不合理な説明には徹底して究明を求め、JRが回答できないことは次回への宿題にするなどの、ぶつかり合いがなかった。フォーラム参加の学識者は善良な人ばかりだが、「それをやるなら、これに気を払ったほうがいい」「こうやるのがいい」といった、どちらかというと推進を前提としたアドバイス的な意見が多かった。もちろん、疑念を呈し、批判を展開する学識者もいたが、ここでは、それは割愛する。
　今回、書き留めたいのは、結局、６回のフォーラムでは何も決まらなかったことだ。
　そして大きかったのは、町主催ということもあるが、ＪＲ東海が「住民の理解を得たとは認識していない」と認めたことだ。
　JR東海は従来、住民説明会を開催すると、住民が来てくれた…という事実だけで、住民から反対意見があっても、「理解を得た」と公言し事業を進めてきた。
　フォーラムの最終回の最後に、要対策土置き場候補地の近くの次月（しづき）自治会と美佐野自治会が、決議したばかりだという地区の反対決議書を読み上げた。



「次月自治会は改めて、リニア中央新幹線トンネル残土（要対策土）の候補地AとBに反対を表明させていただきます。反対の理由は３つ。
　①ＪＲ東海は、残土を１５００立米につき１回の土壌検査をするというが、少なすぎる。この方法で正しく結果を見つけることができるか、私どもは不安です。納得できません。
　②盛土は最初の20～30年は大丈夫かもしれないが、風雨にさらされたり、大地震の影響は想像がつかないんです。盛土の下に住む私たちの住民の方は安心して暮らせません。住民に少しは寄り添って真剣に考えてください。
③要対策土には（周辺への汚染を防ぐため）二重の遮水シートを施すというが、その安定はせいぜい50年。200年先、300年先の安全が説明できない。私たちの子孫も安心して暮らせるようなことを考えていただきたい。


そして、本日は（有識者の）富田先生が来ていないのが非常に残念ですけども、富田先生のお話の中では、各地のハナノキはみな遺伝子が違う。美佐野地区には240本のハナノキがある。この貴重なハナノキをJRさんが切り倒すなんてことがものすごく罪深い。そう思われませんか（拍手）。
ハナノキだけではなく、これら貴重な動植物を丸ごと保全していただきたい。そのためにはあそこに残土を置くべきじゃないと思います（後略）」
　
　２つの自治体の反対表明のあとで、住民団体「上之郷リニアトンネル残土を考える会」も同じく反対決議を読み上げた。

←決議書をJR東海に手渡す住民

　この３組織の続けざまの反対表明があっては、さすがにＪＲ東海も「住民の理解を得た」とは言えなかった。
　閉会後、私も含め数人の記者がＪＲ東海の職員のもとに駆け寄り、尋ねた。


――住民の理解を得られたととらえるのか？
「いえ、理解はされていない。協議は続けなければならない」
――となると工事は遅れる？
「関係者の理解が必要になる」
ーー以前、JRは「住民の理解が得られなければ、要対策土を町外に持ち出して処分する」と明言したが、実際、その理解が得られなかった。流れからすれば町外処分になるのではないですか？
「その回答はこちらです」（とフォーラムの資料を広げた。そこには、それは「選択肢であり、現在では考えていない」とかかれている）
ーーいえ、本日、理解が得られなかったわけですから、町内処分はありえないのでは？
「この資料を読んで下さい」（と繰り返すだけ。らちが明かない）


――もし着工するとなると、住民の合意は？
「私たちが決めることではないが、今後、町、住民、ＪＲ東海の３者の合意があっての着工だと思います」
　ＪＲがこう明言したことは大きいと言えば、大きいが、では、その住民合意をどのような形で取るのか。
　別室ではすでに町長が記者会見を開催していたので、私たちは別室に向かった。

●町長の住民軽視

←御嵩町フォーラム町長記者会見
　ある記者が町長に尋ねた。
――全６回のフォーラムが終わったが、住民の理解を得られたのか？
「そうは思っていない。協議は続けなければならない」
――理解は深まったのか？
「理解しない人はどこまでも理解しない。また理解の広がりはなかった。フォーラムには毎回同じ人しか来ない」
――ではどの部分が評価されるのか？
「一定の説明責任ができたとの評価はできる。できること、できないこと、やれるのにできないことなど我々も知識を得た」
　私が尋ねた。
――今しがた、ＪＲ東海は「着工には、ＪＲ東海、町、住民の３者の合意が必要になる」と明言した。では今後、フォーラムではない形での協議はどういう体制で行うのか？　そのひな形はあるのか？
「まだないが、ＪＲが住民の地域に出向いての説明はあると思う」
――ただ、今後の協議で住民参画は基本とするのか？
「難しい」
　
　井澤記者も尋ねた
――６回で結論が出なかったのは、住民の不安が増したから。やはり①町長の「受け入れ前提」での協議との姿勢と、②重要湿地であることを隠したこと、が大きい。
　ところが、この質問に、町長は「住民のせいで」との理論を展開してきた。
「結論を導き出さなかったが、フォーラムの住民の顔ぶれはいつも同じ。私は「大丈夫かよ」と思った」
　また町長からはこんな発言も
「フォーラムで、重要湿地の希少植物を一番守りたいのは私だとわかった。でも、湿地の８０％をＪＲが守ると言ってくれた。私自身は山仕事ができないので（任せられる）」
――町民に判断を仰いでもよかったのでは
「そういうのはほかの町の事例を見てみて」
――先ほどの、「顔ぶれが同じ人ばかり」との発言は失礼では。休日にわざわざ来てくれた住民ですよ。じゃ、町長はこのフォーラムに一体何を求めていたんですか？
　これに町長は明言を避けた。じつは渡辺町長はこの７月４日をもって勇退する。つまり、自身の在籍中に何かの指針を出すことなく町政を去る。

　次回町長選には二人が立候補すると言われるが、今のところ、この盛土問題には２人とも慎重姿勢を見せているというが、慎重は反対を意味しないので、地域住民はもうしばらくは緊張のときが続きそうだ。


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