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●「生活絵画事件」。絵を描いただけで逮捕・拷問をされた教師たち
  昨日の東京新聞第3面は、81年前の1941年、すなわち戦前に治安維持法逮捕された経験をもつ100歳の菱谷良一さんが、弾圧の被害者に謝罪や賠償をするように国会議員に要請した…との記事だった。

 菱谷さんは逮捕された事件は「生活図画事件」と呼ばれる。
 
これは、1941~42年に北海道で労働や生活の様子をありのままに絵に描く生活図画運動に取り組んだ道内の教員や学生ら26人が治安維持法違反容疑で特別高等警察(特高)に逮捕された事件。18人が起訴、3人が実刑、13人が執行猶予付き有罪となった。
 菱谷さんは、それを経験した最後の生存者だ。

●綴方教育連盟事件。佐竹直子記者の渾身
 私がこの記事で思い出したのは、「獄中メモは問う 作文教育が罪にされた時代」(道新選書。2014年)の著者である北海道新聞の佐竹直子記者だ。
 私は2015年に拙著「悪夢の超特急 リニア中央新幹線」でJCJ(日本ジャーナリスト会議)賞を受賞したが、そのとき、いっしょに受賞したのが佐竹記者だ。
 2013年、佐竹記者は、ある取材で、個人の書庫で偶然に特高に逮捕された記録を描いた「獄中メモ」と出会う。特高が、罪なき人たちの体と精神とをボロボロにするその様子に、読み進めるうちに鳥肌が立ち、その書類に向けたカメラもガクガクと震えた。
 佐竹記者はJCJ賞の授賞式でこう語った。
「あれは、獄中メモを書いた人が、私に『あんた、オレの代わりにオレたちがされたことを伝えてくれや!』と訴えてくれたのだと思います」
 そして、佐竹記者は関係者への徹底した取材を敢行するのだが、それが、獄中メモに描かれていた「綴方(つづりかた)教育連盟事件」への取材だ。
「生活図画事件」が絵であるならば、これは「作文」だ。自分たちの暮らしや思いをありのままに描くことを国語の授業に取り入れたものだ。「獄中メモは問う」では「ナット(納豆)売り」という作文が紹介されている。
 これは、家計を助けるために兄弟が納豆売りに出かけた作文だが、その素直な文体に感銘した北海道の各地の教師たちが「北海道綴方教育連盟」を設立。そして子どもたちの作文を集めた学級文集が各地で制作されていく。ところがこれが「共産思想である」として、次々と教師たちが逮捕されていく。北海道でその数56人。うち12人が起訴され11人が有罪、一人が死亡する。その11人も2007年に99歳で亡くなった人を最後に生存者はいない。
 残された家族も周囲からは「アカの家だ」と指さされ辛い人生を歩むことになる。また本人が釈放されても、もう教職に戻ることはできなかった。ひどい時代だった。

●原稿を託された佐竹記者
 そして、佐竹記者は「生活図画事件」についても「獄中メモは問う」の最終章で描いていて、数少ない生存者である松本五郎さんへのインタビューを掲載している。
 松本さんはその後亡くなるが(それにより生存者は菱谷さんただ一人となる)、ご遺族は、松本さんが病のため実現できなかった最後の講演用の原稿の原本を佐竹記者に送付した。佐竹記者は、その思いを受け止め、北海道新聞の記事にまとめた。

 この記事には、松本さんが逮捕される前に描いた絵が数点掲載されているが、なぜそれが危険思想とみなされるのか。
 そして、この国会体制、警察体制は、今の日本でも、自白の強要が依然あることや、特に市民運動の実践家たちの突然の逮捕と長期拘留で見ることができる。
 佐竹記者が本を執筆中に日本では秘密保護法が成立し、集団的自衛権の行使容認する憲法解釈が起きている。問題はまだ終わっていないのではないのか。
 「獄中メモは問う」は私がここ数年読んだ本のなかでも「渾身の一冊」だ。是非、手に取って読んでほしい。



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2022/05/13 22:40 戦争 TB(0) コメント(0)
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