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●膠着状態に陥った静岡県とJR東海
 JR東海が計画するリニア中央新幹線は、2027年に東京(品川駅)と名古屋駅とを40分でむすぶ予定だ。
JR東海は2014年以来、リニアが通過する1都6県で着工したが、静岡県だけが本線工事を許可しない。

 理由がある。

 JR東海の予測では、県北部の南アルプスをトンネル掘削すると、「県の水源である大井川が毎秒2トン減るかもしれない』。
 これに対して、県は「工事で失われるトンネル湧水を『全量、大井川水系に戻せ』と主張。
 そのための話し合いを、県とJR東海は2014年から続けているが、未だに、JR東海は県が納得するだけの具体策を提示できないでいるからだ。

 それどころか、2019年10月から、県とJR東海とは膠着状態に陥った。

★膠着した背景
 2014年からの話し合いで、2018年になってようやくJR東海は「全量戻す」と県に約束した。
 ところが、2019年、この約束は反故にされる。
 JR東海は、掘削工事で発生するトンネル湧水を導水路トンネルで流し、11キロ下流にある椹島(さわらじま)で放流することを打ち出している。だが、トンネル湧水は、本来下流にいくはずの地下水もその場で出てくるので、椹島に放流すると、流量はむしろ増えると主張したのだ。
  この見解に県の難波喬司副知事は、2019年10月、筆者の取材に「椹島で増えるのは当たり前。でも、本来、椹島より下流で出てくるはずの地下水はトンネル湧水で先に出てきたので、下流側が増えるはずがない。誤解を与える説明だ」とJR東海の説明に不快感をにじませていた。

大井川、下流で流量は増えない←県が作成した、下流側で流量が増えるはずがないことを示すイラスト。本来、上流から下流に行くはずの地下水も、上流のトンネル湧水として出てしまうからだ。
 
 この10月にはJR東海は「標高の低い山梨県と長野県に工事中にトンネル湧水は流出するので、全量戻しは難しい」とも表明したことから、話し合いは進まなくなったのだ。

●有識者会議
 そこで、2020年4月から、国土交通省が「交通整理役」として、「有識者会議」を開催。
 ここでは7人の委員とJR東海とが、「全量戻し」に加えて、「南アルプスでの減流が果たして県中下流域の地下水にも影響を与えるか」の2つを主たる議題として会議を進めている。

210207有識者会議8←第8回有識者会議。2021年2月7日。

 だが今、この会議は、正確には、福岡捷二座長の運営は、JR東海の主張の追認に過ぎないのではとの疑念が記者たちにもたれている。

●唐突な座長発言
 2021年2月7日の第8回有識者会議を筆者は取材したが、会議中の福岡捷二座長の発言はあまりにも唐突だった。
 JR東海の提出した資料は、降水、表流水、地下水、導水路トンネルなどのイラストが描かれ視覚的に判りやすいものだった。そして資料ではこう予測されている。

「(導水路トンネルで放流することで)椹島下流側の河川流量は増加します

 ただ、よく見ると、「常に一定量の降水と蒸発散が生じていることとする」という仮定も書かれている。これは、年間降雨量を365日で割って、その雨量が毎日あるというあり得ない仮定だ。

トンネル掘削完了後の恒常時 毎日降雨との仮定

 つまり、JR東海は2019年10月の見解を変えていなかった。

 そして、福岡座長は突然、何かの紙を読みながら、「全体として、JR東海から出されたモデルについて、私としてどうとらえるかをまとめたい。今回、大井川の上流では水は減るが、中下流域では維持されることが示されたと思う。これを、本会議で確認できたということでよろしいでしょうか?」(要約)と発言した。

210207福岡座長


 え?
 ここで、委員の一人の沖大幹氏が声を上げた。
今のまとめ方は、若干、誤解を生む。川の流量は年間のなかで変動があるのに、減らないことを強調するのは非現実的。実際はわからない。JR東海が示した『平均的には減らない』と一般化する言い方は間違いだ」(要約)
 福岡座長はその意見を、会議後にまとめる座長コメントに反映させると発言した。

 筆者が関心を引かれたのは、この日、初めてJR東海が示したデータだ。静岡県のトンネル掘削で出るトンネル湧水をJR東海は導水路トンネルに流す計画だが、回収できずに標高の低い山梨県側に流出する期間が10か月あり、その総量は300万㎥もあるのに、それでも椹島下流で200万㎥も流量が増えるという。

JR東海モデルでの大井川流量変化

●不適切な座長コメント

 実際、会議後に記者に配布された座長コメントにはこう書かれていた(要約)。

座長コメントのキモ


JR東海より示された以下の事項を有識者会議として確認した。椹島より下流側の河川流量は、導水路トンネル等で大井川に戻される量を考慮すると、平均的にはトンネル掘削前の河川流量を下回らないことが示された。これにより、トンネル湧水が山梨県側に流出した場合においても、椹島より下流側では河川流量は維持される

 このコメントに、会議をWEB傍聴していた難波副知事はまたも不快感を露わにした。

210207難波副知事

「椹島で流量が増えるのは当たり前。解析は必要ない。ただ、そこから下流では、本来上流から出てくるはずの地下水が出てこないので、流量は増えない。工事中は、山梨と長野にもトンネル湧水が流出する。第1回有識者会議で、沖委員が『県外流出させても河川流量は増えるというおいしい話はない』と明言されたが、まさにその通り。今回、JR東海は『ゼロリスクです』と明確に説明した。こういう説明をする限り、県、流域住民は解析結果に信頼できない
 
 また、翌日の記者会見で、有識者会議の森下祐一委員(静岡県が選出)は「私は昨日WEB参加したが、座長コメントのとりまとめのときに、『JR東海の見解を会議が認めた』とは書かないでくれと要請した。だから、コメントでは『確認した』と、JR東海の見解を聞いただけとの表現になった。それでも座長コメントは、文章は正しいが、誤解を生む文章です。そもそも、会議の議事録は後日公開されるので、会議後に座長コメントを出すのはいかがなものかと思っている。それを国交省鉄道局の事務局に何度と伝えても、そのたびに『おっしゃることはわかります』だけです。ほかの委員? コメントに特に異論をさしはさむことはあまり聞いていません」

 また、森下委員は、有識者会議がそろそろ「中間とりまとめ」を出すと事務局から聞いていると伝えた。
 座長コメントについては、以前も記事に書いているが、JR東海寄りと思われる会議の運営で果たしてどんな「中間とりまとめ」が出てくるのか。

●川勝平太知事「座長コメントはいらない!」

 とここまで書いていると、ちょうど静岡県の川勝平太知事のYoutube配信での記者会見が始まった(2月9日14時)。川勝知事はそのなかでこう断言した。
「『全量戻し』が約束なのに、座長コメントでは、山梨と長野へトンネル湧水が流出するのが当たり前のように書いている。コメントにはJR東海の見解を会議が『確認した』と書いているが、それだけの内容に過ぎず、コメントと呼ぶにはあまりにも杜撰。また山梨側に300万㎥も流出するのに、あたかも当然のようにも書いている。あれほどの学者である福岡さんがなぜこんなことを言うのか。こんな座長コメントはいらない」
 この有識者会議では、確かに県との話し合いでは出てこなかった資料が続々とJR東海から提示されるなどの一定の進歩もあったが、今、静岡県庁、県の利水者、メディアは、この会議が結局はJR東海にお墨付きを与えるだけの機関になってやしないかを危うんでいる。

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