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樫田秀樹

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●遅ればせながら、「リニア・山梨裁判」の報告

 7月30日、山梨県甲府市で「リニア中央新幹線工事差し止め裁判」が開催された。
 なぜ、ここまでSNSへのアップが遅れたかというと、私はこのたびクラウドファンディングでリニア取材経費(といっても、カバーできるのは半年分程度)を集めることができたが、まずはその支援者への報告が優先されるからです。

 ところが、クラウドファンディングのサイトからその報告を送ろうとしても、なぜか「書式が違う」といった謎のメッセージが出るばかりで、結局は最初から打ち直して送った・・という時間の無駄もあったことで、本ブログへの執筆が遅れたのです。
 さて、前置きは以上として、7月30日の報告は以下の通りです。


●被告席に誰もいない!

 原告は8人。うち3人が意見陳述をした。
 だが3人は肩透かしを食ったに違いない。というのは、自分の主張をぶつけるべき被告席が無人だったからだ。被告はJR東海。
 原告側の代理人である梶山正三弁護士によると、「第一回期日に限って、答弁書を裁判所に提出していれば、被告は欠席してもいいから」だ。
 だが、梶山弁護士は「けしからん」と憤る。
 というのは、7月30日という期日が決まったのは6月6日。被告側に代理人は4人もいるのだから、一人くらいは日程を合わせて出席するはずと予想していたからだ。
 だが、裁判前日の7月29日、被告側弁護士から梶山弁護士に電話が入り、誰も参加しないことが告げられた。
「いや、誰か一人くらい出てください!」
「そう決めたもので…」
 梶山弁護士は「原告の非難を直接聞きたくなかったのか」と推測している。

 ともあれ、第2回期日以降は、被告は出席しなければならないので、そのときこそ意見陳述をぶつけることができる。
 ところで、梶山弁護士は準備書面を17通作成していたが、それに対して、被告からの回答は「ピーマン」(梶山弁護士)だった。回答はわずか4行だけ。

第1 請求の趣旨に対する答弁
 1 原告らの請求を棄却する
 2 訴訟費用は原告らの負担とする
  との判決を求める。

●裁判の概要

 リニア計画を巡って、現在、二つの裁判がある。
1 リニア計画の事業認定の取り消しを求めた行政訴訟。原告738人(第1次)。被告は国土交通省。2016年5月提訴。
2 リニアの工事差し止めを求めた民事訴訟。原告8人。被告はJR東海。提訴は2019年5月。

 この二つ目の裁判を提訴したのは、南アルプス市の市民団体「南アルプス市リニア対策協議会」の8人。
今年5月3日、「生活が破壊される」として、リニア工事の差し止めや慰謝料を求めてJR東海を甲府地裁に提訴した。

リニア山梨裁判 入廷行動

 リニア計画が明らかになってから、地域の住民たちは、もしリニアが開通したら、「★騒音 ★日照障害 ★振動 ★景観阻害 ★地下水枯渇 等々」で生活が破壊されると認識した。
 ただし住民は初めからリニア計画に反対したのではない。条件をつけていた。防音フードを設置せよ、もしくは、騒音のない場所への移転を補償せよ、と。
 そこでJR東海とまずは話し合いを持ったが、まったく歩み寄りが見られない。防音フードをつける気はないし、補償対象となる家屋も路線から22mの幅だけ。
 住民たちはこれに異議を唱え、甲府簡易裁判所に民事調停を申し立てたが、2回の調停は不調に終わった。最後の手段として、今回の提訴に及んだのだ。
 7月30日の第一回口頭弁論では、8人の原告のうち3人が意見陳述にたった。

リニア山梨裁判1 裁判報告←向かって左が梶山弁護士、隣りに志村さん。

 住民代表の志村一郎さん(77歳)は「JR東海は私たちの疑問に具体的に答えない。そして、住環境に必要なのは1 平穏、2日照、3景観、4風通し、5地価の安定等だが、リニア沿線でこのすべてが崩される住宅が相当数にのぼる。移転補償が必定だが、それも無理なら工事差し止めしかない」と陳述した。
 トマト農家の葛西正弘さん(71歳)は、「リニア高架路線が農地を分断する。そして高架の日陰はトマト生育に影響する。この年で他の土地に移っての新施設への投資は無理。リニアに反対はしないが、正当な補償をしてほしい」と訴えた。
 そして3番目の秋山美紀さんの陳述には傍聴席からため息が漏れた。
 19年前に移住し、家族3人で平穏に暮らしてきた秋山さんの家屋はリニア路線からわずか北側に2m。土地の一部はリニア路線にかかる。
「最悪な生活環境になるにも関わらず、補償されるのはリニアの用地に係る土地だけで、該当する日陰補償が30年間分の厳しい保証だけで、私たちをこの地に住めと押し付ける強引な手法には、到底納得できません」
 冬至になれば、秋山さんの自宅の日照時間は1時間未満となる。さらにわずか2メートルの距離では、6時から24時まで6分間隔でリニアの騒音に悩まされることになる。

高架の日陰で家が真っ暗になる←リニア山梨実験線のすぐ近くに住む雨宮さん。写真撮影が11月上旬。11月中旬から1月中旬の2か月間は、太陽が高架の裏を通るので家屋が真っ暗になり、寒さにふるえることになる。
日陰のシミュレーション←雨宮さんがペン先で自宅の場所を指す。JR東海が作成した高架による日陰シミュレーション。

 住民の差し止め請求は南アルプス市内の5Kmが対象となるが、主任弁護士の梶山正三弁護士は「一カ所でも止めれば、リニアルート全体が止まる」と訴えた。

 だが、3人の原告が残念に思うのは、被告が一人も被告席にいなかったことだ。それは、原告にすれば、自分の思いの丈が被告に直接伝えられなかったことを意味する。次回期日は11月19日10時半から。

 もう少し詳しく知りたい人は、以下もお読みください。

●補足情報
 2013年9月、JR東海は、リニア計画路線の地域での環境アセスを終え、具体的にどういう計画で事業を進めるかの住民説明会が各地で開催。
 今回の原告8人が驚いたのが、自宅や所有する土地のすぐ近く、もしくは分断するようにリニアが通ることだった。
 以後、住民は動いた。具体的な動きを大雑把に書けば以下の通りになる。

1.大雑把な動き
▲2014年10月17日 国土交通大臣が、リニア計画を事業認可。
▲JR東海は各地で住民説明会を開催。だが南アルプス市の説明会ではJR東海が具体的回答をしないために、「この説明会はなかったことにしてほしい」と今も事業説明を拒否する自治会もあるほどだ。
▲具体的に、住民が受け入れられない被害は例えば以下のものだ。
 ★騒音
  リニア計画では、地上部の高架レールを防音フードで覆うのが原則だが、防音壁のみで天井が開いた走行区間がいくつかある。路線近くでは騒音被害を避けられない。騒音規制法では、大雑把には昼間は55デシベル、夜間が45デシベルが上限だが、リニアも含む新幹線計画においては、路線から片側400m(両側で800m)の範囲で70から75デシベルまでが認められている。
 ▲無補償
  400mの範囲での騒音被害があるかもなのに、JR東海が示した移転補償の対象は幅22mだけ。そこより外の家屋は無補償となる。
 ▲日陰
  高架の北側の家屋は日陰になる。それを補う電気代や暖房代の補償は30年間だけ。31年目からは自己負担だ。

2.住民の行動
 ▲申し入れ
 住民はすぐに動いた。まずはJR東海との話し合いだ。だが、JR東海の姿勢に失望することになる。
 たとえば、JR東海に「防音フード」の設置を何度も文書で申し入れた。だが、文書での質問に対して、JR東海がどう回答するかというと「口頭」で回答するのだ。しかも回答文書を読み上げながらだ。
 「その文書をください」と言っても、JR東海は絶対に文書をくれない。そして、その口頭内容についても、「大丈夫です」「法を守ります」などの抽象答弁に終始し、逆に住民の不安を煽った。
 秋山さん(前出)は、JR東海への不信感から、JR東海から求められた境界線を確定させる測量の立会いに応じず、その測量を認める印鑑も押していない。

  ▲調停と裁判
 ついで、住民は甲府簡易裁判所に民事調停を申し立てたが、2回の調停は不調に終わった。原告団長の志村さんはこれを振り返り「結局、話し合いも調停でもJR東海は一片の誠意を見せてくれなかった。私は当初、防音フード設置や移転補償が実現すればよしと思っていたが、今ではもうリニアを止めるしかないと思うようになりました」と語る。

3.弁護士の思惑
 この裁判を担当するのは、梶山正三弁護士。ごみ問題の係争では梶山というくらいに名を知られた弁護士だ。
  その梶山弁護士は裁判後の集会で私にこう語った。
 「現在、東京で行われている行政訴訟は愚策です。というのは、国相手の行政訴訟は最高裁まで争って判決が確定するのに10年はかかるのに、その間にリニア工事はどんどん進んで完成に近づいてしまう。しかし、今回は長さ5Kmの区間を止めるだけの民事訴訟だが、一カ所を止ればリニア全体が止まる。そして、地裁レベルでは長くても3年で判決が出る。私は勝てる可能性があると確信している」と語った。
 梶山弁護士は、原告8人が居住するリニア建設予定地を検証するよう裁判官に求めている。
「二日もあれば8カ所を回れます。そうすれば、この計画がいかに財産権と人格権を侵害するかが理解されるはず」
 11月19日も私は傍聴する予定だ。

 ただ、この裁判の方向性で今一度確認したい事項もあり、それもおって取材する予定。

リニア新幹線が不可能な7つの理由


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 リニア中央新幹線の取材範囲は、東京都から愛知県までと広範囲で、多大な取材経費を要することから、2018年後半に取材資金が底をつき、2020年に新たな単行本を出すことを目的に、2019年4月からクラウドファンディングでの取材資金を呼びかけさせていただきました。そして、多くの方からのご支援をいただくことができました。本当にありがとうございました。とはいえ、リニアの取材は来年も5年後も行うわけで、来春以降は、再び取材資金の確保に頭を悩ますことになりそうです。何度もクラウドファンディングは使えません。そこで、少額でもご支援をいただければと、ここにそのお願いをする次第です。額面に関わらず、ご支援に対しては、リニアについての単行本の送付や記事の案内などをさせていただきます。私の銀行口座は「みずほ銀行・虎ノ門支店・普通口座・1502881」です。今後とも応援をしていただければ幸いでございます。どうぞよろしくお願いいたします。  樫田拝
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