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ソマリア沖の海賊行為で逮捕され、日本で審判を受けるはずの4人が、ソマリ語通訳がいないとの理由で、公判予定が未定となっています。関心惹かれる一件です。私がかつて2年間(1985年から87年)、あるNPOのスタッフとしてソマリアに住んでいたことがあるからです。

 エチオピアとケニアの両国に近い国境の町ルーク。その周辺にいた難民の人々への保健プロジェクトや農業プロジェクト、収入向上プロジェクトを担当していました。
 当時、簡単な日常会話はなんとかこなしていました。ただ25年も経つとその9割は忘れています。

 ルークはかつてギネスブックで世界一暑い場所として記録されました。気温が連日50度を越え、湿度は10%を切り、見える光景は砂漠の灰色だけ。こういった殺伐とした自然環境は人間の心理にも強く影響を与えるようで、難民も私たち日本人スタッフも常に一種ギラギラした雰囲気を身にまとい、日本ではケンカをほとんどしない私ですら、一部のしたたかな難民との臨戦態勢を常にとっていて、実際、ときに怒鳴りあうように対峙したものです。

 自然環境に加え、ルークは、難民の出身地エチオピアの国境が近いという地理的理由でも常にピリピリとした緊張感を強いられた場所でした。実際、ちょっと緑の多い内陸部の難民キャンプでは、人々が微笑みながらゆったりと歩いている。その心のゆとりに、「お~、これが同じソマリアか~」と妙にホッとしたものです。

 で、言いたいことは、私の理解しているソマリアは、ルークであり、ソマリア全体像ではないということです。

 ソマリアにやってくる難民は当時、エチオピアからが圧倒的多数でしたが、元々同じソマリ族なので、彼らが言葉や文化で困ることはありませんでした。

 ルークの難民は、大多数の遊牧民系と、少数派の農民系とに大別できますが、遊牧民系はとにかくしたたか。
 たとえば、難民の登録や支援を担当するUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が、x月x日、どこそこの町で難民登録をするとの情報が伝わると、親戚の子どもをかき集めて難民登録に赴く一家が当たり前にいました。つまり、登録係員の前で「さあ、見てください。私の子どもは8人もいます。食糧支援がなければ生きていけません」と訴え、実際の家族の数よりも多い人数で登録され、必要人数以上の量をゲットできる食料クーポンを入手するわけです。

 一方の農民系の人たちは、これは私たち日本人との文化や思考、情などが共通する部分が多く、つきあうのに障壁はそれほど高いとは思いませんでした。

 ただ両社に共通するのは、難民となってソマリアにやってきたばかりの頃は「オレたちはボロボロの難民だけど、立ち直ってみせる」との、それこそ今の東北大震災の被災者の方々の思いとも共通する覇気をもっていました。実際、彼らはNPOの支援も待ってはいましたが、それ以上に、自分たちでやれることはすべてやっていました。私は「できるだけ助けないのが、助けることになる」と気づかされたものです。

 しかし、いわゆる国際支援が5年、10年と続くと、しだいに食糧援助に慣らされ、働く気も失われ、逆に、私たちNPOに「俺たちは貧しい難民だ。お前は俺たちを救う義務がある!」との言葉を吐く人も現れます。私は、新しい難民とも古い難民とも付き合ってきましたが、さすがに、こんな言葉を目の前ではかれたときは、腹が立つと同時に、彼らのやる気を失わせてきた「与えるだけの」援助のあり方を次第に疑問視するようになりました。
 ともあれ、こうなってしまった人たちと渡り合う毎日は、こちらの神経がズタズタに傷つく思いが走ったものです。

 一方で、そういった殺伐とした環境の中でも、私を常に精神的に支え救ってくれた心優しき立派な人も数多くいたのです。私がソマリアを去った4年後の1991年にソマリア内戦が始まり、無政府状態が今日まで続いていますが、ときどき、あの人は、あいつは、今何をしているかなと思い起こします。エチオピアから難民となりソマリアにやってきても、内戦で再び難民となった彼らは今何をしているのか。

 さて、遊牧民系と農民系の人たちの行動パターンはある程度は理解できましたが、今回の海賊事件を起こした漁民系のソマリア人の思考パターンや行動パターンは私には分かりません。

 ソマリア沿岸部でとんでもないことが起こっていることを知ったのは5,6年前でした。
 こともあろうに、無政府状態になってから、ヨーロッパの産業廃棄物処理業者がソマリア沿岸やソマリア沖に有毒廃棄物、医療廃棄物や放射性廃棄物を海底に投棄していたのです。
 そして、それら廃棄物を封入したはずのドラム缶などが、2004年にインドネシアなどを襲った大津波の影響で(ソマリアにも到達していた)、沿岸の村々に打ち上げられ、多数の病人を出したのです。

 だが、無政府状態のソマリアを取材するのは命がけのことで、ほとんど誰もこれを取材していません。あるイタリア人ジャーナリストが現地取材をしましたが、何者かに命を消されています。

 ここから先の話はほぼ推測でしかないのですが、海賊の頻発には二つの説があります。
1.沿岸部を汚染された漁民が、仕方なく、食うために海賊行為を働くようになった。
2.海賊は、元々プロフェッショナルが存在していた。それが活発化したことで国際社会に注目された。

 さらにもう一つの情報としては、
★無政府状態になってから、ヨーロッパやアジアの漁船がソマリアの魚を乱獲した。これに抗議したソマリア漁民が何百人も射殺された…。
 もしこれが本当なら、「やり返す」のは大いにアリです。

 私はどれも可能性もあると思います。
 ただし、1に関しては、ソマリアのあの長大な海岸線すべてが汚染されてしまったのかは、なかなか想像できません。詳細なレポートがほしいところです。そもそも、海賊を行うには、それなりの必需品(船、武器など)が必要なわけで、それをどう調達したのか? そこで2のプロとなんらかのコンタクトをしたのか?

 もし1の理由であるなら、海賊行為は許されないにしても、そこに至った背景に関しては理解する必要があります。

 韓国でもソマリア人の海賊が連行され裁判を受けましたが、ここではハングル語、英語、ソマリ語のリレー通訳で乗り切ったようです。
 日本でも、来日時の取調べのときに立ち会った通訳にもう一度登場してもらうか(当局は、裁判前に事情を知った人の再採用は客観性に欠けるとの理由で、同じ通訳の裁判での採用を考えていない)、日本に数人いる元ソマリア人難民に頼むか、ソマリアの隣の国のジブチ(ソマリ族の国。青年海外協力隊も駐在している)から英語を話せるソマリア人を連れてくるか、やはり隣の国のケニアに多数いるソマリア人難民から英語を話せる人を連れてくるしか方法はないかもしれません。

 単に海賊行為だけに焦点を当てるのではなく、その背景を明らかにすることこそ裁判です。何せ、日本に連行された4人のうちの一人はまだ19歳と幼い。 19歳の彼が自ら望んで海賊行為に及んだのか? 本当に、放射性廃棄物の問題があったのか、それによる被害者はいたのか、それとも、割のいい仕事だからのめりこんだのか。

 知りたいことはいっぱいあります。公判が始まれば傍聴に足を運びたいと考えています。

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2011/07/10 22:23 ソマリア TB(0) コメント(0)
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