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3月上旬に、長野県の阿智村と松川町で取材をしてきました。
その概況を何回かに分けてレポートします。

●阿智村の現在の概況

 長野県阿智村には、非常口が建設予定ですが、ここから排出される残土(約71万立米)をどこに運ぶかが未定です。
 阿智村の村長は、かつて飯田商工会議所のリニア推進の部署の要職を務めていたとかで、リニア推進派とも呼ばれます。ただし、単なる人事配置でその要職に就いていたのか、個人としてリニア推進なのかは何とも測りかねるところです。
 ともあれ、仮に村長が推進派だとしても、阿智村では今、JR東海が残土埋立てをそうやすやすとはできない状況であることもまた事実です。

 阿智村での残土問題の概略をごく簡潔に整理すると以下のようになります。

★非常口は阿智村清内路地区の住民の生活道路である村道「1-20号線」(いちのにじゅうごうせん)沿いに建設される。非常口予定地の地名は「萩の平」。
★「1-20号線」は黒川という小さな川沿いに走っている。
★「1-20号線」の下流側の出口は国道256号線にぶつかる。
★阿智村の国道256号線には村随一の稼ぎ頭「昼神温泉郷」がある。
★「1-20号線」沿いには地元の人たちの畑が点在している。高齢者のなかにはここを歩いて畑通いする人もいる。この道は狭い。軽自動車同士でもすれ違えない。片側がほぼ垂直の山肌、もう片側が川に落ちる急斜面。残土を運ぶダンプはここを1日最大230台走る。
★国道256号線も、「1-20号線」から出てきたダンプなどと合わせ、一日最大920台が通る。

萩の平地図←黒川も1-20号線も実際はクネクネしている。

1-20号線は狭い←1-20号線は本当に狭い。しかも拡幅工事はおよそ無理なのでは。


●それぞれの思惑
 以上の概況に対して、関係者のそれぞれの思惑は以下の通りです。

★村、そして昼神温泉
 村一番の稼ぎ頭の昼神温泉街への道路となる国道256号線に一日920台ものダンプに走られては、観光客の減少、イメージダウンにつながりかねないので、256号線を走るのは避けてもらいたい。
★「1-20号線」周辺の住民や、黒川周辺で畑作を営む住民
 現在交通量の極めて少ない生活道路に一日230台のダンプに走られては困る。

 つまり、この意思を尊重するなら、JR東海は「1-20号線」も「256号線」も使えないことになる。
 そして、16年2月4日、本ブログでも紹介したように、「阿智村社会環境アセスメント委員会報告書」が、自主アセスの結果を出すに至るのですが、その「報告骨子」は11あります。その概要だけ書けば、

▲「1-20号線」に代わる「代替路」の検討や残土運搬ダンプを「大幅に削減」すること、等を村や村議はJR東海と協議すること。
「1-20号線」にガードレールの設置や拡幅などが求められる。
▲実効性のある環境保全協定をJR東海との間で締結すること。

 これは、深読みすれば、JR東海の着工へのハードルを高くしたとも読めます。なぜなら、「1-20号線」の拡幅やガードレール設置は、現場を見たらわかりますが、ほぼ無理だからです。いや、やろうと思えば、山肌を大幅に削ればできないこともないですが、それだけで何年もかかる大工事になるから、JR東海はやらないでしょう。
 そこで、今、持ち上がっているのが、萩の平の上流部に残土を埋める(積む)方策です。もちろん一つの案であり、これについては現在、JR東海が調査中。この3月で中間報告を出すようです。
 
 まず、今回は、上記、「阿智村社会環境アセスメント委員会報告書」が出された後、村の「阿智村リニア対策委員会」とJR東海とでどういうやりとりがあったかを整理します。
 リニア対策委員会とは、村議3人、農業委員、商工会長などから組織される、リニアに関してJR東海との窓口となっている組織です。
とはいえ、対策委員会からの質問は多岐にわたるので、そのうち、「住民理解」と「残土処分」「工事用道路」に絞って整理します。

●「阿智村リニア対策委員会」とJR東海のQ&A

■その1 住民理解について
 対策委員会は、JR東海が長野県大鹿村で行った言動を問題視し、以下の質問をしています(概要)。

2016年7月12日 対策委員会→JR東海への「質問書」

▲質問①-1 2014年10月22日、阿智村リニア対策委員会、同年11月12日、阿智村中央公民館での住民説明会で(JR東海は)「地元の理解・合意が得られなければリニア工事は着工できない」と説明されました。
しかし、2016年4月27日大鹿村説明会では、「住民の理解、合意ができたかどうかはJR 東海が判断する」と発言されたとあります。
 阿智村住民は「地元住民の理解、合意ができなければ JR 東海は工事着工しない」と考えていますが、それに相違ありませんか。
▲質問①-3 「住民の理解や合意」は事業者、説明者である貴社ではなく「事業による影響が予測され、事業者より説明を受ける側である住民の認識、判断によるもの」と私達は理解しています。2016年4月27日の大鹿村説明会でのご発言について説明下さい。また、住民からの合意が得られたとの判断する基準をお示し下さい。



★8月29日 JR東海から対策委員会への回答

▼①-1 地元の住民の方々にご説明し、ご理解を頂きながら進めていく方針に変わりはありません。
▼①-3 地元の住民の方々にご説朋し、ご理解を頂きながら進めてい<⽅針に変わりはありませんが、計画を進めていくにあたって責任を持つのは、事業者である弊社だと認識しております



★10月7日 対策委員会→JR東海への「質問書」(No.2)

▲質問①(1)  「地元の住民の方々にご説明し、ご理解を頂きながら進めていく方針に変わりはありません」と回答されていますが、改めて、住民の理解、合意は何をもって判断されるのか具体的にお示しください

▲質問①(2) 『計画を進めていくにあたって貢任を持つのは、事業者である弊社だと認識しております』と回答されています。また、9⽉13⽇に⼤鹿村で⾏われた⼯事説朋会で『⼯事の説朋に対する質間が多く、やった意味があった。理解を進めていただくことができたと感じている』と貴社から発言されています。⼯事計画遂⾏の貢任は当然事業者が持つことと認識していますが、合意ができたかを判断するのはあくまで住⺠側にあると思いますがいかがでしようか。また、住⺠合意が得られたとの判断基準について改めてお⽰し下さい。



★12月5日 JR東海からの回答

▼①(1)(2)  地元の⽅々と具体的な話し合いを積み重ねてい<過程における皆様からの意⾒を踏まえ、 地域の方々の合意が得られるよう努めてまいります。



★2017年2月3日  対策委員会→JR東海への「質問書」(No.3)

▲質問① 工事着工合意と住⺠理解のためのルールについて
リニア工事の着工については、村と貴社との文書のやりとりをもって合意するものと考えています。そのために貴社の事業、工事説朋や回答書等に対する住⺠の皆さんの意⾒を広く聞く中で対策委員会では、協定書等文書の原案作りを進めているところです。この原案を元に村は議会と協議の上、最終判断をすることになります。住⺠に対し⼯事の事業主である貴社の説朋貢任は当然必要なことだと考えますが、当該地区との懇談会や説朋会の開催のルールについてお⽰し下さい。

――ここまでーー

 3回目の質問は先月ということもあり、まだJR東海からの回答は現時点(3月11日)ではありません。
それでも、このやりとりを読んでいると、JR東海は阿智村においても、大鹿村でしたのと同じように、住民の意向を軽視している姿勢がみてとれます。
 3回目の回答についても、阿智村の村民の何人もが「先が思いやられる」と言うように、おそらくはJR東海からは具体性のない回答が返ってくるだけかと思います。一方、村リニア対策委員会からは、この点において毅然たる姿勢を感じます。


■その2 発生土の処理や道路工事について
 
これについては、ごくごく簡単に整理します(詳しく書けばとても長くなる)。

 対策委員会は、
「発生土運搬のリスク軽減のために、村道1-20 号線、黒川上流域での発生土置き場(仮置き、本置き場)の可能性の再検討、再調査をお願いしたい。1-20号線の全線2車線化も必要かと考えますが、貴社の考えをお示し下さい」

 と要請し、それに対して、JR東海は

「上流域の調査は2016年11月から着手し、2017年3月末までに結果を取りまとめる」

「2⾞線化及び歩道設置には、移転が必要となる家屋も出て、その他の場所でも⼤規模なエ事が必要となり、⻑期間の通⾏⽌めの必要が出てくることから、現実的ではない。また⼤規模な⼟地の改変等も必要なため、環境への影響も⼤きく、困難と判断いたしました」

 と回答しています。
 だったら、どうして南アルプスにトンネルを掘るんだと突っ込みたくもなりますが、それはさておき、まともに考えたら「1-20号線も使えない」かつ「国道256号線も使えない」となるのですが、JR東海があっさりと引き下がるはずもなく、住民の何人かが「こうなるのでは」と推測しているのが・・。

「黒川の上流部に、一部でも残土の仮置き場を作る。同時に、1-20号線の全線2車線化は無理でも、一部2車線化や待機所の工事はする。そうすることで、1-20号線の通行を可能にして、同時に、国道256号線を通るダンプの台数を少なくするのでは」

 との推測ですが、ともあれ、上流部調査の中間報告はこの3月末までには出るようなので、その結果を関係者は待っているのが現状です。その結果次第で、次の出方を決めると。


●JR東海は何を説明したのか?

 「1-20号線」があるのは、阿智村について書いた前回のブログでも説明しましたが、村で唯一人口増をみている「清内路」という地区です。
 11月7日、ここでJR東海が説明会を開催しました。
 簡単に書くと「黒川上流部の調査をさせてほしい」ということです。そして、この説明会を開催したことで、JR東海は上記リニア対策委員会に「上流部の調査を行う」と報告し、実際に11月22日から調査を開始しました。

 参加者は、JR側が、「鉄道・運輸施設整備支援機構」(工事の発注元になるという説明)から課長以下3名、JR東海から課長以下3名の計6名。
阿智村側では、副村長、役場のリニア対策係、議会のリニア特別委員会正副委員長、リニア対策委員会正副委員長、清内路自治会リニア対応代表者会と村道Ⅰ-20号地権者の会から代表及び各会員が参加。
 これに参加した人がそのときの質疑応答をまとめてくれていたので、それを公開します。

Q:村道の使用は、大型重機搬入については致し方ないとしても、残土搬出について使用を認めたわけではない。苦渋の選択として、上流域に残土の仮置きができないかの調査をするように要望書が出されたわけであるが、阿智村地籍に限らずお願いしているがどうなのか?(樫田補足:黒川上流部はやがて飯田市の地籍になる)
A:阿智村内に限っての調査の予定。
Q:飯田市も含めて調査対象にしてほしいと県にもお願いしている。
A:飯田市には打診しているが、答えを待っていると調査に入るタイミングが遅れてしまう。とりあえず先に阿智村内の調査を始めたい。
Q:飯田市の部分が遅れたとしても、飯田市からOKが出た時点で調査対象地域に含めるべきで、調査結果に反映させてもらいたい。

Q:村道Ⅰ-20号以外の代替道路の可能性もまだあきらめてはいない。以前の事業説明会で調査結果から不可能と報告があったが、具体的にどこを誰がどのような形で調査したのか?
A:実際に現地には行きました。公道から見える範囲での目視と、地形図・航空写真を用いての確認によって、現実的に難しいという結果になりました。
Q:あなたたちは全く現地の地形を理解していないし、こちらだってあてずっぽうに言っているわけではない。実際に可能性があるのではないかという場所を示したのに、調査のやり方がいい加減じゃないか。
A:・・・(答えに窮して沈黙)
Q:もう一度きちんと調査をするべきだ。

Q:村から要望書が出されて調査に来るわけだが、こちらが望んでいるわけではない。調査をしてもいいよ、というだけのことでそこを勘違いしないように。道路の二車線化など誰も望んでいるわけではない。そんなものなくても私たちは幸せに暮らしている。あなたたちが来なければ、そんなものは必要ないのである。
A:こちらが工事をお願いする立場であることは十分に承知しております。
Q:雪が降る前に調査と言っているが、冬季の実情をきちんと把握した方がいい。積雪があり、凍結した状態をちゃんと見に来なさい。頭で考えているのと実際は全く違う。
A:村道の調査は冬季から春にかけて行うので実情をきちんと把握したい。

Q:大鹿村のようなやり方は到底容認できない。住民理解が進んだと勝手に判断されるようでは、信頼関係は築けない。阿智村で同じことをしないように。
A:大鹿でのことについては偏った報道がされてしまい残念ですが、我々としましても丁寧なご説明を繰り返して進めてまいりました・・・云々(言い訳に終始)。

 リニア対策委員会にしても、一般村民にしても、共通しているのは「JR東海が大鹿村でやったやり方は絶対に承服できない」ということです。
 だが課題は、じゃあ、どうやってその民意をJR東海に納得させるかです。
 JR東海は確かに「住民が理解したかどうかはJR東海が判断する」との、それまでの約束を反故にする発言をして、実際に起工式にまで踏み切ったわけですが、ただし、同時に「住民説明会でのやりとり、大鹿村リニア対策委員会での話し合い、工事事務所大鹿分室での住民の話し合いなどを総合的に判断する」とも言っていました。これはあながち否定されるべき発言ではありません。
 工事事務所は平日の朝から夕方まで開いていて、住民なら誰でも行けて、意見を述べるなり質問をすることができる。だが、平日の昼間では仕事をしている人は行けないということもありますが、工事事務所で頻繁にリニアに反対する住民や不安に思う住民が訪れていたかといえば、それほど数は多くなく、かつ、固定メンバーに限られていたようなのです。
 だからJR東海に「反対者は少ない」との材料を与えてしまうことにもなる。とはいえ、その逆の推進派の住民も積極的に工事事務所を訪れていたわけではないので、総合的に考えれば、「住民の理解を得た」と判断するのはじつに早急だった言わざるを得ませんが。

 で、繰り返しますが、説明会以外の日常において、自分たちの民意をどう伝えるのか?
 これは、リニアに限らず、環境問題や社会問題に直面している住民たちの大きな課題です。

 これは以前ブログに書いたことですが、私が以前賃貸マンションに住んでいた時に、突然、私の天井のすぐ上に携帯電話基地局が設置される計画がもちあがり、私は町内会の力も借りて反対運動を展開しました。ところが、このとき、KDDIの下請けの「きんでん」という会社が、地域の各戸を回り、KDDIには「計画に賛成の声は確かになかったが、説明を聞いていただいたので、計画は理解されたと認識した」とのトンデモ報告をあげたのです。この報告を基にKDDIは工事を強行。だが、この手法は、じつはKDDIに限らず、全国のあちこちで使われている手口です。
 私の反省点は、「窓口を一本化すべきだった」こと、そして、「事業推進者を適当にあしらうのではなく、反対なら反対、理解していないのなら理解していないと、合意していないのなら合意していないとの意思をはっきりと、日常的に、示すべきだった」ことです。
 日常的に民意をどう示していくのか。 
 次回は、上記、Q&Aのレポートを寄せてくれた住民も含め、阿智村の住民の意志はどうなっているのかについて、簡単に報告します。

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