リニア、立ち木トラスト始まる。山梨県中央市でまずは405本。

●立ち木トラスト始まる。

　7月29日。　山梨県中央市のある桑畑で、リニアの市民運動では初となる立ち木トラストの札かけが行われました。

←札かけをする市民団体「リニア市民ネット」の川村晃生代表。

　品川・名古屋の286キロのうち、トンネル区間は86％の246キロ。残り40キロの地上区間のうち、山梨県だけにそのうちの27キロが集中します。これは、それだけ、家屋や田畑の用地収用が行われることを意味します。

　今回の桑畑でも、地上30メートルの高架を走るリニアのために約800㎡が収用される予定です。
　また収用を免れても、高架が作る日陰のために、残る桑の生育に多大な影響が出ることが予想されます。
　これに対抗するために、800㎡に育つ405本の桑に、一本1000円でオーナーを求めたところ、あっと言う間に完売。29日の札かけに至りました。
　マスコミの食いつきもよく、朝10時の開始前には、ＮＨＫ山梨や民放、地元紙などがけっこう取材に訪れておりました。



　リニア問題に関心を寄せる人のなかには、「立ち木トラストは時間稼ぎにすぎない。もっと本質的な運動を」と主張する人がいます。その主張も間違ってはいません。だが、私は立ち木トラストは単なる時間稼ぎだとは思わない。また、そうやって手間暇かけて今日の札かけというイベントにこぎつけたわけですが、その利点はやはりマスコミが取材に来るということです。また、リニアに関心をもつ新たな市民が増えることです。

　もちろん、インターネットでの情報発信も大切だし、集会を催すことも大切です。だが、世にリニア問題を少しでも知ってもらおうと思えば、やはり、なにか目新しいことをどんどん行うことも必要です。以前、このブログでも書いた、吉野川河口堰の市民運動のように（反対運動よりも、とにかく、イベントばかりして市民とメディアの注目を集め、結局事業中止に追い込んだ）、「目立つ」ことも作戦として考えなければなりません。

　この前日の28日、山梨県のいくつかの市民団体はＪＲ東海中央新幹線山梨工事事務所に「住民に丁寧な説明会を求める」要望をしています。
　これは、4月下旬にＪＲ東海が「中心線測量をしたい」と地区に回覧板を回したのだが（住民の抗議で行われていない）、6月1日に、昨年行った事業説明会の質問や回答をまとめた冊子を地域に回覧した対応について「順番が逆。住民の理解が得られてからの、中心線測量のお願いであるはずだ」と批判したものです。
　
　その帰り道、市民団体は、10数人の少人数ながら「ストップ　リニア」と書かれたプラカードを掲げながら甲府市内をデモ行進。
　
　注目すべきは、この要請行動や市内のデモ行進をＮＨＫ山梨が報道したことです。
　立ち木トラストの札かけにも取材に来ていて、実際にその日の昼のニュースで映像が流れました。

　ローカルとはいえ、「おー、ＮＨＫが」と市民団体はある種の感慨を覚えています。

　ちなみに、トラストのオーナーは以下の通りです。

　★山梨県241人、★東京都33人、★神奈川県42人、★長野県13人、★静岡県23人、★岐阜県16人、★愛知県13人、★大阪府12人、★兵庫県2人、★千葉県4人、★茨城県、福島県、奈良県、三重県、広島県、長崎県、各1人。


●油断はできない

　これから、用地買収を担当する山梨県は405人のオーナーの一人ひとりに交渉にあたらねばならず、それなりの時間がかかるでしょう。しかし、桑畑の地主さんが中心線測量を拒んでも、収用委員会にかけられれば強制測量もあるわけで、油断はなりません。

　また、市民団体は、立ち木トラストに限らず、様々な戦略を考えなければなりません。今年度中に行政訴訟があるかもしれませんが、それまでにもできることはたくさんあります。
　やはり、ＪＲ東海の作成した環境影響評価書の不備を洗い出し、それを地元自治体や地元県に問いただす作業はあってもいいかと思います。
　あと、楽しいイベントができないものかと個人的には思い描いています。

　ただ、今回の立ち木トラストを支える市民団体の皆さんを見るにつけ、少しずつ問題意識のレベルが向上しているのは感じられます。
　「反対」を言うだけでは、絶対に何も変わらない。
　
　桑畑の地主とも知人である地元のＹさんは、中央市の布施第５地区に住みますが、ここの町会は、ＪＲ東海や山梨県からの戸別訪問を一切断ることを決めました。それは本ブログ「土地は渡さん」　でも書いたように、戸別訪問を受けると個別撃破されるからです。布施第5自治会でも、担当窓口を一人だけに決めて、現在、ＪＲ東海の中心線測量を拒んでいます。

　また、札かけのあと、地主さんの自宅にお呼ばれして「ほら、昨日の今日ですよ」と見せてもらったのは、まさに札かけをした29日の朝に投函されていたというＪＲ東海の「中心線測量のお知らせ」でした。
　前述の通り、市民団体は前日の7月28日にＪＲ東海の工事事務所で要請行動をしているのに、その場での住民へのこういった説明はいっさいなかったのです。

　着手時期は「8月上旬から」となっているので、もしかしたら始まっているかもしれません。
　ただし、地主さんが中心線測量を拒んでいるため、ＪＲ東海はまずは「公道」で測量をするに留めるかもしれませんが、これもなかなか油断のならない話です。



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