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●まさかの逆転勝訴

 5月28日。この日、先約があったこともあり、東京高等裁判所の判決には行かなかった。
 言っては失礼だが、「根津さんと河原井さん、また負けるよな」と思っていた。というか、お二人の支援者もそう思っていたはずだ。
 根津公子さんと河原井純子さんは、教員をしていたとき、式典での日の丸掲揚と君が代斉唱への起立と斉唱を拒んできて、そのために、東京都教育委員会から、不起立のたびに、戒告、減給、停職1か月、停職3カ月、停職6カ月と、一段また一段と思い処分を喰らってきた。そして、そのたびに、処分は不当だとして裁判に訴えてきたが、ほぼすべての裁判で敗訴していた。

 5月28日も、停職6か月の処分は不当だと訴えていた裁判の高等裁判所の判決が出るが、「うーん、また負けるんだろうな」と思っていた。じつは当事者であるお二人もそう思っていた。

(このあたりは、レイバーネットにその報告が詳しい。)

 ところが、判決は予想もしていなかった逆転勝訴ーー「処分取り消し。10万円の賠償を都教委に課す」という内容です。


●厳しすぎる処分 

 式典での日の丸と君が代への不起立・不斉唱については、いろいろな意見があります。
「ルールを守らないなんてとんでもない」
「公務員である以上は、国の方針に従うべき」

 これはこれで一理あります。

 しかし、不起立・不斉唱する側にも理があります。

「どうしても、アジアの人が忘れていない侵略時の象徴である日の丸と君が代には従えない」
「クリスチャンの自分には君が代を伴奏できない」
「自分の思想や良心には背けない」

 以前は、こういった理由で、式典のときに、不起立・不斉唱する教員がいるのは、少数ながら決して珍しいことではありませんでした。私も、友人のお子さんの卒業式に参列したときに、友人と一緒に不起立をしたことがありますが、周囲が立つので、座っていてもまったく目立ちません。奇異の目で見られることもありません。つまり、式典の妨害などにはあたりません。

 しかし、石原新太郎都政になってから、都教委は、起立・斉唱の強制を強化します。
 2003年に「起つべし、歌うべし」とした通達を都下の公立学校に出すのです。
(ちなみに、橋下徹・大阪府政では、君が代を歌っているかどうかの「口元チェック」も実施されたとか)
 
 しかし、各学校において不起立する教師は必ずいるもので、2012年2月15日の当ブログにも書いていますが、その時点で、述べ437人が不起立を行いました。

 しかし、これら教員への都教委の懲罰は厳しいものでした。以下のようになっています。
●1度目は「戒告」
●2度目は「減給1ヶ月」
●3度目は「減給3~6ヶ月」
●4度目は「停職1ヶ月」
●5度目は「停職3ヶ月」
●6度目以降は「停職6ヶ月」

 さらに、これに留まらず、

●担任外し(クラスの担任教師にさせない)
●長距離異動(片道2時間はかかる学校への異動)
●過員配置(すでに教科担当の必要人員がいる学校へ異動させる)
●再任用取り消し(定年退職後の60歳から65歳までの5年間は非常勤教員として働けるのに、その合格を取り消す)

 もちろん、冒頭で書いた通り「ルールを守れ」という主張には一理あります。だが、それにしても、これらの処分はあまりにも重すぎます。なぜなら、社会人としての生活も人生設計も壊してしまうからです。

 これら処分の不当を訴え、東京都では20件以上もの裁判が起こされ、その原告数は1000人弱にも膨らんでいます。
 しかし、その処分の重さから、不起立をする教員は年々減り続け、今では卒業式や入学式でそれぞれ数人だけになりました。


●定職6ヶ月の辛さ

 東京都では、停職6ヶ月という最も思い処分を受けた教員は2,3人いますが、その一人の根津公子さん(2011年、定年退職。家庭科教師)は、私の記憶では3度もの「停職6ヶ月」を受けてきた人です。そして、河原井純子さんも。
 根津さんは、父親が太平洋戦争時に中国で参戦していたその経験から、どうしても戦争に繋がるものには賛同はできないと、式典では不起立を貫いてきました。

 しかし、根津さんは強いだけの人ではありません。特に、2回目の「停職6ヶ月」の処分を受ける前は、ご自身も支援者も、「次は免職では?」と予想していました。

 「どうする?」

 根津さん自身が深く考えました。そして出した結論は、「やはり私は私を貫くしかない。ここで私の信条を私自身が裏切ったら、私が教職を続けられたとしても一生後悔する」ということでした。
 しかし免職の心配から、このころ、根津さんは顔以外の全身に発疹が出ます。夜も寝れない日もありました。この発疹は、卒業式シーズンが近づくと、いつも根津さんに現れた症状です。

 そして2008年3月、卒業式で不起立。

 3月31日、根津さんの学校に、都教委の職員が処分を言い渡しにやってきます。多くの支援者とメディアが校門前に集まり、その固唾を見守ってきました。ああ、生徒に愛されてきた根津さんがいよいよ免職かと、誰もが諦めにも似た気持ちをぐっとこらえていました。

 そして数十分後、学校の2階の窓が開き、根津さんが支援者に大声で伝えました。

「ねえ、聞いて。都教委は、私を免職にする理由がないと言いました!」

 え? 

 次の一瞬、支援者は雨の中で泣いていました。そして支援者の前に現れた根津さんは、こう言ったのです。

「よかった。また教師を続けられる!」

 あのときの根津さんの晴れ晴れとした顔を私は忘れることはできません。
 
 とはいえ、受けた処分は再び停職6ヶ月。免職よりマシとはいえ、これは社会人としてはとても厳しい処分です。なぜなら、半年間賃金ゼロでボーナスもない。年収は200万円以下。

 禰津さんはこの停職6か月は行き過ぎであると、裁判に訴えていたのですが、地裁では負け、今回の高裁で勝訴を手にしました。

 今回の判決は、根津さんと河原井さんへの「処分取り消し。10万円の賠償を都教委に課す」という内容です。


●教師の立場に配慮した判決

 今回の判決で評価されるべきは、裁判長が、都教委から処分を受ける教員が置かれる状況への配慮があったことです。
 こう書かれています。

 イ.都教委の標準処分量定を体罰の事案についてみると、「体罰の回数に応じて機械的に一律に処分を加重していくという運用はしていない。」ウ.しかし、「君が代」不起立については機械的な運用をしている。
 ②「ついには免職処分を受けざるを得ない事態に至って、自己の歴史観や世界観を含む思想等により忠実であ
ろうとする教員にとっては、自らの思想や信条を捨てるか、それとも教職員としての身分を捨てるかの二者択
一の選択を迫られることとなり、…日本国憲法が保障している個人としての思想及び良心の自由に対する実質
的な侵害につながる」

 これは、最高裁でも覆せない内容ではないのかと個人的には思います。

●教師も闘うべし

 私は根津さんと河原井さんを幾度が取材しておりますが、根津さんの言葉で覚えているのは以下のことです。

「たった40秒の君が代斉唱を拒む理由はないじゃないかとよく言われます。でも、私はすでに、日の丸と君が代に嫌悪感を抱いているアジアの人がいることを知っています。私はNOを貫きたい。もちろん、処分が厳しいから、不起立したくてもできない先生もたくさんいます。少なくとも、自分の頭で考えて結論を出してほしい。悩んで悩んで考えた結果、起立するのであればそれはそれで評価したい。一番よくないのは、自分で考えもせず、機械的に命令に従うことです。もし、今、NOと思っているのにNOを言えなかったら、機械的に従っていたら、日本が戦争になる国になったとき、教え子たちが戦場に行かされることにもNOを言えなくなります」

 果たして、まさしく今、日本は戦争を起こそうという国になりつつありますが、いったいどれだけの教師が集団的自衛権の行使について真剣に考え、あるいは、NOを言っているのか? 下手すれば、今の子どもたちが大人になったときに、戦争に行かせられるかもしれない。今こそ、労働組合に入っている入っていないにかかわらず、多くの教師に声を上げてほしい。
 
 それにしても、自分は貫いてみるものです。闘ってみるものです。改めてそれを痛感しました。
 下記の「希望は生徒」は根津さんが書き下ろした自身の半生記です。ここに根津さんの信条がよく表れています。





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2015/05/31 22:01 抗う TB(0) コメント(0)
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