リニア、久保田酒造の悩み

●久保田酒造の水、リニアで枯れるか？

　神奈川県相模原市の久保田酒造で使用する水は、酒蔵の裏山から湧き出る井戸水。
　しかし、この水がこれからのリニア工事で枯れるかもしれません。

　久保田酒造は、江戸時代から続く酒蔵で、相模原市で唯一の酒造会社です。ここは、代々、番頭さんが会社を継いでいたそうで、当主の子どもが後を継ぐというのは、今の久保田晃社長が初めてとのこと。先代の久保田社長（晃さんの父親）は、１９年前に脱サラしてこの酒蔵に入りました。

　しかし、その先代の体調不良で、画家を目指していた晃さんが１２年ほど前に事業に参入。今、弟さんと会社を切り盛りしています。


●水を考慮してくれた以前の公共事業　　

　久保田酒造で使用する水は、現在の井戸で３代目です。

　一つ目は、今の井戸と同じ場所にありました。だが、近くの宮ケ瀬ダムから津久井湖にまで水を流す「津久井導水路」の工事で、水が枯れるかもしれないとのことで、神奈川県が酒蔵から１キロくらい北にある場所に新たな井戸を掘ってくれました。ただ、これは晃さんが事業に参入する前なので、それ以上に詳しいことは伺えませんでした。ただし、酒作りに適したとてもいい水であったのは同じとのこと。

　そして、その次にやってきたのは県の公共事業である「津久井広域道路」の建設。これにより、井戸の真上に橋脚が作られることになりました。
　このとき、相模原市が政令指定都市になり、この事業は相模原市の事業となるのですが、市は工事を始める前の５年間をかけて地質調査や水質調査を行い、結局、一つ目の井戸があった場所をより深く掘り下げる（地下５０メートル）ことで、酒作りに適した水を探してくれたのです。

　←　代表銘柄の相模灘をもつ久保田晃社長。若き杜氏でもある。


●リニアで水はどうなる？

　ところが、ここで懸念が。
　リニアの山梨県実験線で水枯れが起こった場合、それがリニア工事との因果関係があると認められれば、ＪＲ東海は補償（井戸を掘る、給水車で水を運ぶ、金銭補償など）を行っています。
　それは当然やるべきこととしても、注視すべきは、「枯れてから」対処していることです。

　だが、久保田酒造の場合、県の事業（のちに市の事業）では、工事前に５年をかけて調査をし、水が枯れる前に新たな水源を確保してくれた。

　この違いは大きい。

　もし、久保田酒造の水がリニア工事（酒蔵から北に約１キロ）で枯れたとしたら、ＪＲ東海はまずはその因果関係を調べます。

　それにどのくらいの時間がかかるのか？

　その間の酒作りはどうなるのか？　金銭補償はあるのか？

　最悪の場合、もし因果関係を認めなかったら？

　久保田晃社長の願いはただ一つ。

「いい水がほしい。それだけです」

　この訴えは当然至極です。
　だが、工事が地価水脈を絶ち切った場合、それがいつ井戸を枯れさせるかは誰にも判りません。


●水位の変化は「ある」

　久保田酒造は相模原市とはいえ、山間部に位置します。
　そして、ＪＲ東海の作成した「環境影響評価書」には、神奈川県の山間部においては水資源の水位に「影響はある」と、はっきりと予測しています。
　つまり、久保田酒造の井戸も枯れる可能性が低くない。

　おそらく、水枯れした場合、補償（代替の井戸を掘る）はあるかと思います。
　だが、問題は、枯れてから数か月間は久保田酒造は操業停止に追い込まれるということであり、それが仕込みの季節にぶつかれば、一年間を棒に振ることになりかねません。

　ＪＲ東海は、こういった予測される事態をどう考えているのか？

　来週以降に開催されるＪＲ東海の「事業説明会」では、この水資源の枯渇についてＪＲ東海はどう説明するのか。

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悪夢の超特急 リニア中央新幹線 (2014/09/17) 樫田 秀樹 商品詳細を見る １９９９年からリニアに関する住民の動きを広く浅く追ったルポ。実験線周辺では、ＪＲ東海が「枯れない工法を施工する」と表明しても枯れ続ける川や沢。一つの谷間を埋めても用途の決まらない残土置き場。今後も、電磁波、国税投入、原発再稼働、処理できない膨大な残土、水枯れ、朝から晩まで数百台も1,000台以上も走り続ける工事用大型車両、立ち退き問題等々が予測されているが、一番の問題は、賛成派や反対派、慎重派、有識者、自治体、ＪＲ東海などが一堂に会する徹底検証が一度も行われず、「環境への影響は小さい」だけが繰り返され、ほとんどのマスコミは報道を避けているという、原発推進とまったく同じ構図で推進されていることだ。いかに、ＪＲ東海が住民を軽視しているのかも描いている。リニア問題を知る入門書。

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