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樫田秀樹

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●山崎恵さんの記事

 5月5日の東京新聞の第一面の連載記事「憲法と、」に目を引かれました。
 私がかつて取材した人が取り上げられていたからです。

 その人、山崎恵さんのことを書いたルポ「自分に嘘はつかない」は1998年の「第3回週刊金曜日ルポルタージュ大賞」の佳作を受賞するのですが、これは、私がこれまでのジャーナリスト生活でもっとも力を入れて書きあげたルポの一つです。
 全文はこちらで公開していますので、是非、お読みください。

 東京新聞の記事は、私のルポをそのまま短くしたような内容でしたが、私は、14歳の少女がいじめられても、さげすまれても自分を貫いたことに感銘し、取材を行なったのでした。

 内容は、車椅子生活の少女が、中学校の普通学級での学習を望んだのに、また、教育委員会も勝手にクラスを決めないと約束したのに、中学校の入学式当日に、突然、特殊学級(現在の特別支援学級)入りが告げられる。しかし、普通学級か特殊学級かを選ぶ権利は自分にあるはずだと、山崎さんは、主要5科目の授業参加が認められている普通学級にそれ以外の教科でも自主登校する。いじめも受ける。無視もされる。そして本件を裁判に持ち込むのですが、自分の意思を貫くため、敢えて敗訴の道を選ぶ・・というものです。


●何が何でも記事にしたい

 私が山崎さんに取材を申し込んだのは、彼女が定時制高校4年生のときでした。
 その年の6月に山崎さんの住む北海道留萌市に赴き、安ホテルを根城に、1週間山崎さん宅に通い、一日2~3時間の取材を行ないました。しかし、まだ材料が足りず、さらに10月にも4日間ほど追加取材を行ないました。

 私は、山崎さんのことは何が何でも記録に残そうと思っていました。
 なぜから、いわゆる「障害者」の話題は、タブーでもあるまいし、どの週刊誌でも扱ってくれないからです。だから、ルポルタージュ大賞で何が何でも賞を取って、誌面に出す。それを目指しました。

 山崎さんから聞いた話は信じられないことの連続でした。

 1年生のときは、主要5科目以外でも、その参加を黙認してくれる優しい先生もいた、支えてくれる友人もいた。だが、学校側は、手助けする友人たちに「山崎の車椅子を押すな。本人のためにならない」とその交流を絶ち、特殊学級を拒んだ以上、給食も、母親が職場を抜け出し、昼休みに自宅に舞い戻りほんの数分でのどに食べ物を流し込み、学校にとんぼ返りする毎日。2年生になると、授業参加の黙認は許されなくなり、たいていの教師が普通学級に自主登校する山崎さんに「山崎、出ろ!」と命令し、優しかった生徒たちもやがてそれに同調します。「山崎、出ろ!」
 そして、すさまじいイジメが始まります。山崎さんが動かせる指は右手の親指のみ。だのに、落とされたら取りにくい下敷を落とされ、靴の中には画鋲を入れられ、車椅子ごと壁に放り出される。山崎さんに最後まで寄り添ったのは他クラスの女子一人だけとなりました。
 山崎さんは、障害者が普通学級で学べることを目指す組織の大会で「学校は戦場だから、涙は血だから、私は泣かない」と発言しています。
 どんないじめにあっても山崎さんは泣き崩れないことで自分自身を保ちました。
 ただし、泣かない代わりに、学校では一切の喜怒哀楽も表現しなくなりました。いじめにあっても、一切無表情で通したのです。これがさらに周囲には「変わっているヤツだ」との印象を与え、山崎さんは疎外されていきます。

 そして、2年生のとき、14歳で山崎さんは裁判に打って出ます。「教育を受ける権利は私にある。教育委員会や校長が決めるのではない」と。
 もちろん、これは初めから勝つ見込みのない負け裁判でした。
 ただ、山崎さんにしてもご両親にしても、こんな歪なことが学校で起こっていることを世間に訴えたかったのです。


●負けを選ぶ

 しかし、この負け裁判に勝機が現れる。裁判長が「裁量権で争わないのか」と打診してきたのです。

 つまり、子どもをどの学級に入れるのかの裁量権は校長にあるが、それでも今回はその裁量を大きく逸脱した・・と訴えれば勝てるとの打診だと、弁護士も、支援者も、本人も受け取りました。

 山崎さんのイジメを知っている支援者や親は「それで闘おう」と気勢を上げます。
 しかし、山崎さんは悩んだ末に、結局、裁量権で争うことを放棄します。なぜなら、校長の裁量権を認めると、自分のような肢体不自由児は普通学級に入れても、知的障害児は入れないのではと予測したからです。

「裁量権で争わないことにします」

 裁判所で山崎さんはこう宣言して、果たして、判決は「敗訴」。
 しかし、直後の記者会見で山崎さんはニコニコの笑顔で登場します。自分を貫いたのだと。

 山崎さんは、高校は地元の定時制高校に進学。ここでは、普通学級で当たり前に学べました。「本人のために」と特殊学級入りを強制しようとした中学校と教育委員会。そして、普通に学べた高校時代。

 いったい何が違ったのか?
 高校では、山崎さんのために車椅子用のスロープが用意されたり、家庭科の料理実習でも、高さの調整できる料理台が用意されていました。

 山崎さんは「障害」をこう定義しますーー「障害とは、自分ができないことを周りが当たり前に手伝ってくれないこと」
 
 この言葉は、今も私の脳裏を離れません。周りが当たり前に手伝えば、障害者は差別も区別もされることなく、社会のなかで当たり前に生きていけるからです。

 さて、これはいつも書くことですが、私がこのルポを書いたのは、あくまでも自分を最後まで貫いた少女を描きたかったからであり、「障害児の普通学級入り」を勧めるためではありません。その逆でもありません。

 という断りを入れなければ、特別支援学級や養護学校にお子さんを通わせているご家族からは、このルポは、「特別支援学級に通学させている自分たちは間違っているのか」と勘違いされがちなのです。
 そうではありません。普通学級か特別支援学級のどちらに入れるかは、あくまでも本人とご家族の判断だと思います。

 山崎さんの闘いは、まさしく、その選択の自由を求めたものでした。
 
 私だったらあそこまで闘えたか。それを自問自答させられた取材でした。

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2013/05/09 00:42 抗う TB(0) コメント(1)
コメント
道議選で立候補した山崎さんがどういう人なのか知りたくて検索しているうちに、ここに来ました。大変な生き方をしてきた人だと、自分の想像力のなさに恥じ入りました。
HPの他の記事もいろいろ読ませていただきましたが、けっこうぐっときました。今後もよい仕事を期待いたします!
2015/04/09 11:10 もんちゃん URL [ 編集 ]















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