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樫田秀樹

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●やるせなくなる

 翌日の話し合いで、私は怒りを押し殺してただ告げた。

「あなたがたは給水所には行っていない。もうばれている。ここに給水所は作らない。いつものロバで給水所に行くか川から水を汲もうがそれはあなたたちの選択だ。私は関与しない」

 昨日の男はただ気まずそうに口もとだけで笑みを作った。だがそれで彼らが懲りることは決してない。すぐさま、新たな要求が飛び出てきた。

「まあ、それはいいさ。ところでな、定住者と地元民とが、ここでの問題と将来を語り合うための集会所を作ってほしい」

「断る。それは約束にはないはずだ。作りたいのなら自分たちでどうぞ」

「いや、お前は約束しているぞ!」

 一人の農民が自信満々に声をあげた。

「約束していないものはしていない。この要求は受け付けない」

 アオキがどういうことかとその農民としばらくソマリ語でやりとりを始め、フムフムと頷いていたが、どうしようもねえやとの含み笑いをしながら私に向き直った。

「カシダ、とんでもねえぞ、この人たちは。『各家庭には家一軒分の資材のみ与える』との約束を『他の施設への資材提供の制限はない』と拡大解釈して主張している」

「なんなんだよ、それ。ともかく絶対拒否するぞ」

「そうするしかない。特に、あのマーリン=モハメッドには要注意だ」

 こんな詭弁には付き合っていられない。私はただ告げた。

「言い分はわかった。こちら側が言えるのは、それを作るつもりはないし、その予算もないということだ」

 みえみえの詭弁であっても、話し合いに同席している大人たちはそれをとがめるどころか、積極的に同調し私を責める。

「カシダ、お前は嘘をつくんだな!」

「俺は、集会所を作るとは一言も言っていない」

「集会所という言葉はなくても、必要な施設は作ると俺たちは解釈している。そうだな、みんな!」

 そうだと全員が頷いた。
 ひでえ・・。そのとき飲み込んだ唾は本当に苦かった。その苦渋が喉を流れ、全身の細胞の一つ一つに染み込んでいくような感覚に、私は体がフルフルと震えてきた。

「その要求は受け入れない。約束していないからだ。あなたたちがどう言おうと、自分たちで作るべきものは自分たちで作るべきではないだろうか。あなたたちにはその力がある。農場でもここ定住地でも皆で一緒に作業をしているじゃないか」

 マーリン=モハメッドが口を開いた。

「こういう諺がある。『人の意見を聞き入れないものは、誰からも相手にされず』とな。よろしい、確かに俺たちは一緒に作業をしているが、農場の仕事とここでの仕事で手一杯だ。いかなるときも予測しえないことは起こるもの。俺たちは、本当に、皆が一緒に休める場所、話し合える場所を欲しいと思うのだ。そして、今ここに、日本から俺たちを助けに来てくれたJVCがいる。俺たちを助けるのがお前の仕事ではないか! 俺たちは貧しい難民だ。その貧しい俺たちに手を差し伸べることは、カシダ、お前の義務なのだ! 俺たち難民はお前たちから欲しいものを手に入れることができるのだ!」

 いつかは聞くだろうと予想はしていた言葉である。だが実際にそれを耳にすると、今ここで、目の前にいる人たちに絶望しなければならないやりきれなさに爆発しそうになる。いつから、この人たちはこういう考えをするようになったのだ? なぜこんなにもマグドールと違うのか?

 結局、大勢の定住者が住み着くようになれば、JVCの事務所も作るので、その一角を集会所に利用するという提案でこの話は切り抜けた。だが、JVCが事務所を作る日が来ないことを私は既に確信していた。

「アオキ、俺、もうやめたいよ」

「カシダ、気持わかるよ」

アオキとモハメッド=ハジの二人のソマリア人スタッフが私と行動を共にしていたが、二人とも私同様、話し合いが終わるとその表情にただ疲れだけを滲ませていた。


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