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樫田秀樹

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 突然、学校を作ってもらえないかと頼まれた。
「ここに移住したら、マガネイの学校まで3、4キロは歩くことになるからな」
「そんなのたいした距離じゃないでしょう」

 ソマリア人スタッフのモハメッド=ハジも同調した。

「俺なんか、子どもの頃は5キロ歩いたぜえ」

 たまたまそこに居合わせた日本人のOさんも

「何だ、それくらい。俺なんか8キロだ」

 こういう具合に、明るく笑って要求を退けられたのはこの一件だけだった。あとは、私には苦渋の思い出しか残っていない。

「話がある」

 と呼び止められ、建設中の家に入ると、なぜか第4農場の主だった農民たちが既に輪になって座っている。まさしく、ガン首揃えて手ぐすね引いて待っていたといったところだ。ここでの生活がどうあるべきなのかの展望を話し合うのではない。彼らはいきなりこう切り出すのだ――「ニワトリ小屋を」「倉庫を」「ロバを」・・

 予想していたことだから、私はその要請のほとんどを断り続けた。だが、ここで絶対に折れないのがルークの難民の特徴だ。ある日、こんな要請が出た。

「家を作ってはいるが、提供された資材の中にはドアを作る角材や鉄板がない。その提供を求める」

「それは、あなたがた自身で作るはずだった。一斗缶を開いた鉄板を木枠に打ちつけるんだろう」

「それを買う金がないんだよ。だから頼んでいる」

「しかし、その金を何とかすると言ったのはあなたたちだ。この要求は受け付けられない」

 農民の一人、40代後半のマーリン=アブディが表情を変えた。

「まず、お前がここに通って俺たちのことを考えていることには感謝する。ラッキン! 俺らが困っているときに何の手助けもないとはどういうことか。ソマリアにはこういう諺がある。『友を思わぬ者はその後の人生につまずく』とな」

 なんだあ?

「お前の言うこともわかる。だが、現実にドアを買う金がないのは現実なのだ。誰がドアのない家に住めようか?
 このままでは泥棒を呼ぶようなものではないか」

 ちょっと待って欲しいと、私は2、3人のソマリア人スタッフとそこから数十メートル離れた場所に移り、協議に入った。私は独断を避けていた。それはソマリア人スタッフもまじめに考え、その判断で至る結果と向き合って欲しかったからだ。

 私はソマリア人スタッフに言った。

「断固拒否すべきだ。少し前まで自分たちでやるといっていたんだし」

「それはわかるが、家が建設中の今、倉庫も警備員もいなければ資材を泥棒から守るのはドアしかないのも事実だ。盗難に遭えば、またJVCが買い物することになる。それを考えたらドアの資材くらいは安いと思うが」

「だから、それも予測して自分たちでやると言ったはずだよ」

「ただ、現実問題、収穫を前にして、彼らに十分な金がないのも事実だ。だから収穫後、その売上のなかから払ってもらうので手を打とう」

 なるほど。私は妥協した。ただし農民にはこう告げた。

「半額負担での提供をします。とはいえ、今はあなたたちにもお金がないだろうから、支払いは収穫後まで待ちます。ただし、約束になかった物資提供は今回で最後とします」

「カシダ、お前は素晴らしいヤツだ」

 こんな言葉、全然嬉しくない。本心ではないからだ。果たして、その数日後またしても「話がある」と声がかかった。


●詭弁とウソ

「先日、最後と言ったはずだが」

「予想外のことが起こったのだ。家の壁と屋根の骨組みは出来上がったが、困ったことに屋根葺きの技術がない。職人を雇ってくれ」

「マガネイには屋根葺き職人がいる。その人に頼めばいいでしょう」

「工賃は誰が払うのか?」

「JVCではないですね」

 またしても、マーリン=アブディが身を乗り出してきた。

「聞け、こういう諺がある・・」

 彼の演説は5分以上は続いた。
 結局、長い話し合いの末、私たちはまたも妥協した。ただし、すべての屋根に工賃を払える余裕もなかったので、JVCの労働者で屋根葺きを少しかじったことのある人間に、最初の1~2軒だけ職人と一緒に仕事をして勘を取り戻してもらい、この仕事を任せることで落ち着いた。

 ともあれ私は決めていた――もう金輪際、約束以外の要求は受け付けない。

 だが、彼らの要求は途切れない。

「早く浄化給水所を作れ!」

 ある日の第4農場の農民との話し合いでの言葉だ。こういうことだった。

 彼が、マガネイの浄化給水所にまでドンキーカート(ロバの荷車)で水汲みに行ったところ、定住地に行った人間、即ち、マガネイ以外の人間には水供給できないとの理由で、職員に入所を拒否された。仕方なく、近くの川岸から水を汲んでいるという。

 水・・。これを絶たれるとなると深刻な問題だ。だが、13軒しか定住を表明していない今、高額予算を必要とする給水所は作れない。

「わかった。ちょっと考えさせてください」

 私はこの問題をまじめに考えようといろいろと思索を張り巡らせた。そのとき既に、人力で井戸を試掘していたのだが、出てきたのは塩水で飲用には適さなかった。

 ソマリア人スタッフのアオキにもいいアイデアをと頼んでいたのだが、そのアオキが翌日私に話し掛けてきた。

「カシダ、嘘だよ」

「ん?」

「給水所で入所を断られたなんて嘘だ。給水所の職員に尋ねたらそんな事実はなかったんだ」

 給水所まで数キロ歩くよりも、汚れていても近くの川から汲むのが楽チン。それが理由の全てだった。彼らは初めから給水所に行っていなかったのだ。

 クソ! 騙したか!


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