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●キレた…

 RHUとのやりとり、投石、つきまとう子ども、数人同時から一秒の切れ目もなく続く話、ドロボウ、虚偽領収書、なくなった休日・・。こんな生活を続けていた85年の秋だったろうか、ある日、私は突然キレた。

 ソマリア人に話し掛けられることに神経がピリピリしていたのかもしれない。給食センターの近くで、人を車から降ろして、さあ出発というときに、一人の老人が走り寄ってきて運転席の窓からいきなり腕を差し伸べて言った。

「おはよう! 俺だ。ドッコ=アブディだ」

 この瞬間であった。

「そう。あんたはドッコ=アブディだ。そんなことはわかっている。何なんだ。何の用事なんだ!」

 私はそのまま車を走らせたのだ。

 私がこの一件を後悔したのは、赴任から一年経って日本に一時帰国したときである。ゆったりとした時間のなかで、ソマリアでの一年を振り返ったとき、この一件を大いに後悔した。

 あの老人は、赴任当時から親しく接してくれた日本人青年に挨拶をしようと、それだけのためにわざわざ車まで来てくれたのだ。だが、絶えずピリピリしていた自分。年上の人に尊敬の念も払わず、わずか26歳でその地域を任されていることでいつのまにかそこのトップにいるような自惚れが出ていたのだと思う。

 1986年4月。私はソマリアに戻った。
 
 ソマリアの2年目、私は、そういう態度をできるだけ排除するように努めることにした。威張るのではなく、毅然とすればいいのだ。

 じつは私だけではない。JVCでも他のNGOでも、威張り散らすスタッフは散見され、あまりにも尊大な態度をとるようになると、本人との話し合いの上、帰国してもらった数例を私は知っている。

 JVCのミーティングでも、ソマリア人側から日本人の「S君」との議題があがったことがある。
 かつて、ルーク地区にいたときは親しみやすかったのに、首都事務所に移ってからは人が変わったように威張るようになった…。改めてほしいとの内容だった。
 ソマリア人スタッフは、この議題を、わざわざS君がルークに視察に来るときに合わせて用意していた。つまり、本人の目の前でいきなり議題にしたのだ。
 S君はただ神妙な面持ちで聞いているだけだった。
 
 だが、S君の名誉のために言っておくと、これも、「Sなら反省してくれる」とソマリア人スタッフが信じていたからだ。

 海外支援には一つの落とし穴がある。それは、日本では、まだ使われる立場の20代から30代前半の若者が、こういう海外の現場ではいきなり人を使う立場になってしまうことである。その経験がなくとも。

 初めは誰もが純粋な気持ちでやってくる。しかし、私が今でも痛感しているのは、ソマリアではどんなに頑張っても、決してそこの人たちと対等な関係になれない構造に身を置かざるをえないということだ。それは仕方のないこととしても、知らず知らずのうちにボスになってしまう一部の若者は、その構造のなかで次第に威張り、親ほど歳の離れている人でも顎で使い、いつか人への優しさを忘れ、難民に嫌われる。特にソマリア病にやられるとなおさらだ。

 ついでながら、私が見たソマリア病第一号患者の高橋さんの名誉のために書きとめておこう。高橋さんは四六時中ソマリア病にやられていたのではない。高橋さんがソマリアを離れた後、マガネイの難民の人々に「どの日本人にまた来て欲しいか」と問うと、どの難民も異口同音に「タカーシャ(高橋)」と答えた。あいつくらい、俺たちに暖かく厳しく接してくれた人はいなかったと。私たち日本人にしても、高橋さんがいたお陰でどれだけチームが家族的に暖かかったのかを忘れることができない。

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