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 5月15日、土肥信雄元校長の高裁審が始まりました。
 14時半からの公判ということで、高裁に14時15分に着いたのですが、既に傍聴席の数以上の人たちが集まっていて、この日の公判を傍聴することはできませんでした。

 ただ、15時過ぎから、近くの弁護士会館での報告集会でその概要を知ることはできました。

 土肥元校長の第一声は「今日嬉しかったのは、(市村陽典)裁判長が僕の顔を見てくれたことです」。

 これは何を意味するかと言うと、地裁で、あとは判決文を書くというタイミングで、なぜか裁判長が人事異動してしまい、その代わりの裁判長となった古久保正人裁判長が、土肥元校長の最終陳述の間、とうとうただの一度も土肥元校長の顔を見ようとしなかったことがあったからです。

 この時点で土肥元校長は「嫌な予感がする」と感じていたのですが、本当にそうなりました。最低でも非常勤教員採用試験の不合格については損害賠償が認められると誰もが予想していたのが、東京都教育委員会の言い分をほぼすべて認める「全面敗訴」となったからです。

●最低最悪の判決

 この判決を、立正大学の浪本教授は「最低最悪の判決」と評しました。
 一つの理由として、原告の言い分が通らなかったというだけではなく、被告である都教委が主張していないことまでも、裁判所がわざわざ「助け舟」を出して理論補強していたからです。

 たとえば、都教委の教育委員を務めていた棋士の米長邦雄氏について、その思想を嫌っていた土肥元校長は、私的な飲み会の席で米長氏についての感想を冗談も交えながら話したところ、これが「都教委の教育委員を批判した」との密告で都教委に伝わり、土肥元校長は、都教委から「都立高校の管理職である校長にもかかわらず,教育委員の米長氏を批判するとは何事だ。発言の内容は全て米長氏及び都議にも知られている。今後このような発言をすると大変なことになる」と何度も指導を受けることになるのですが、

 東京地裁は、「上記各発言(私的な飲み会での)は、全く私的な場においてされたものともいえない」と、都教委自身が主張していないことを判決文に盛り込んだのです。

 判決文は、さらにこう続きます。

「本件判決発言等について投書によりその内容が都教委に伝えられ,その内容に都教委批判,教育委員批判が含まれていたことなどからすれば,(中略)学校の運営に関する指揮監督,指導助言を行う権限を有している都教委が,その事実確認をすること,そして,その発言内容が(中略)校長として不適切な発言であると指導することは(中略)服務監督権の範囲を逸脱するものとはいい難く,(中略)国賠法上違法な行為と評価することはできない」

 簡単に言えば、

 ★飲み会は私的な場ではなく公式な場とも言える → その公式の場での都教委批判について、都教委が指導するのは当然である → 原告の主張は認められない

 ということです。被告が主張していないことを裁判所がわざわざ主張する。これは、司法の逸脱ではないかと思います。


●業績評価問題への助け舟

 裁判での争点は9点ありましたが、その一つが「業績評価」に関わる問題です。

 2000年から、東京都の学校現場では「教員等人事考課制度」が始まりました。
 これは何かと言うと、校長と副校長が教師の「通信簿」をつけるという制度です。採点方式は「ABCD」の4段階の「絶対評価」。Aが良いで、Dが悪い(元々はSABCDの5段階)。

 ところが、校長が作ったこの結果は、都教委が最終的に「相対評価」に変換するという変な制度です。

 たとえば、教師100人がいるA高校で、S評価が40人、A評価が20人、Bが20人、CとDが10人ずつという結果が出ます。やはり教師100人いるB高校では、S評価が35人、A評価が35人、BとCとDが10人ずつという結果が出ます。等々で、その地区全体では、S評価が250人、A評価が200人、B評価が160人、C評価が50人、D評価が40人の計700人が評価を受けたとしましょう。

 これを、都教委は更に「上位」「中位」「下位」の3段階に相対評価するのです。その配分割合は、30対40対30。

 そこで上記のシミュレーションに当てはめると、700人のうち
上位は210人
中位は280人
下位は210人となります。

 となると、全体で250人いたS評価のうち40人が、中位に流れることになります。
 また、CとDを合わせても90人しかいないのだから、B評価(普通評価)160人のなかからじつに120人もが下位に流れることになります。

 いったい、絶対評価を相対評価に変えること自体が可能なことなのか?

 じつは、この制度が導入される直前、私はこれに関して都教委を取材したことがあります。以下、そのときの取材ノートから。


 3月17日、塚田あゆみ・人事部勤労課人事企画係長にインタビューをした。
――校長が下した絶対評価を、どうしたら相対評価に再評価できるのですか?
「ふたつの評価は目的が違うんです。絶対評価は、管理職が教員に助言・指導するためのもので、相対評価は、教育委員会が頑張った教員に適正な処遇を行うためのものです」
――しかし、絶対評価は学校単位で、相対評価は地区単位。その地区で、SやAの絶対評価が多かった場合、同じSでも下位にランクされる人が出てくるのでは・・。
「絶対評価をきちんとやっていれば、SやDだけに偏ることはないと考えます」
――労働省の調査によると、一般企業の人事部でも、『考課者訓練が不充分』という評価する側の能力不足が54%も指摘されています。まして、人事に素人の校長が適切な評価を下せるでしょうか?
「管理職への考課者訓練は、既に1月に1回実施し、6月と8月にも行います。年3回の訓練を毎年行いますから」
――組合は反対していますが・・。
「組合は、反対のスタンスをとるのが当然ですから。一般教員はそうではないと思います」
――つまり、教員へのアンケート調査をしたのですね?
「していませんが、都内に100人いる教育モニターへのアンケートでは7割が人事考課は必要と回答しています」
 15歳以上を対象に都が公募する、教育問題の意見をきくための制度である。期限は1年。
――人事考課制度はうまくいくと確信しているのですね?
「はい、今日の教育問題へのカンフル剤になります


 そして、カンフル剤とならなかったことは周知の通りですが、都教委は、この自らがしていた「絶対評価→相対評価」の作業を、今度は初めから、土肥元校長も含めた全校長に対して「CDを合わせて20%以上の相対評価をつけよ」と命じたわけです。
 しかし、数学的見地からしてもこれは無理な話なのですが、そこで登場するのが、上記の都教委職員の話にあるような

「絶対評価をきちんとやっていれば、SやDだけに偏ることはないと考えます」

 といった、「どこの学校でも同じ割合の相対評価になるはず」との理論です。これは数学的にありえない話です。

 そして今回、絶対評価で行うべき教員への業績評価を「CDについては20%以上を」との「相対評価」で命じられたことを土肥元校長は強く批判したわけです。なぜなら、CD合わせて例年6%くらいしかいない教員を無理やり20%以上いると評価するわけですから。
 
 ですから、土肥元校長はあくまでも、元々定められている「絶対評価」での提出しか行いませんでした。

 しかし、東京地裁は、

「都立学校の教職員全体において,(中略)バランスを考えて人事配置しているならば,各学校において,業績評価において著しい偏りが生じることは一般的には考え難い。さらに,業績評価制度は調整者(都教委)による相対評価が予定されていることからすれば,著しい評価の偏りは,上記相対評価を困難にすることが考えられる。これらのことからすれば,本件における校長の第一次評価権も前記したところからの制約を免れないのであって,最終的には教職員全体について適切な人事評価がされるという目的のために,都教育庁が校長の第一次評価(絶対評価)に対して一定の指導を行うことはそれが不合理なものといえない(後略)」

 と、これまた都教委が主張していないことをわざわざ理論補強して土肥元校長の訴えを退けているのです。


●報道機関への抑制?

 そして職業柄、私が疑問に思ったのが、判決文は、土肥校長がメディアを通じて自分の主張を伝えたことを批判していることです。

「ニュース23」「朝日新聞」「東京新聞」「原告の支援者のホームペー」等々で発言したことを

「短絡的な発言を外部に対して繰り返す行動もみられ,これらについて,原告の信念に基づく見解として,そのような意見を表明する自由があるとはいえるが,地方公務員(校長)としての原告の上記各言動について,都教委が本件不合格理由のとおり評価することは,その評価権者の裁量権の範囲を超えた不合理な評価ということはできない」

 と、取材に応じたこと自体を暗に批判しているのです。
 少なくとも日本では、「表現の自由」も「知る自由」も憲法で保障されているはず。
 だが、地方公務員だからといって取材を受けるのが誤りかのように述べるこの裁判長。何か意図があるのではと思わざるを得ない判決です。


●予断は許さないが

 どういう結果になるかは誰も予想できません。
 裁判長の印象は「可もなく不可もなく」とのこと。ただ、地裁の古久保裁判長よりはマシなようです。

 日の丸・君が代の強制に関する裁判では、今年の1月と2月に最高裁は「都教委による処分は『文書戒告』までが妥当。それ以上の減給、停職、免職は裁量の範囲外」と判断したのですが、考えてみれば、土肥元校長のように、定年退職後の60歳から5年間働ける非常勤教員の採用試験に不合格というのは、実質の「免職」でもあるわけです。

 この点を高裁がどう判断していくのか、見守っていきたいです。


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2012/05/20 23:21 抗う TB(1) コメント(0)
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2012/05/20 23:41 まとめwoネタ速neo
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