リニア、７月１９日、田園調布の住民がリニア工事差し止めを求めて提訴。リニア裁判はこれで４つ目。早ければ、２年後にも田園調布の地下は直径１４Ⅿの巨大シールドマシンで掘削される。

●リニア、４つ目の裁判
　7月19日。東京都大田区田園調布と隣接する世田谷区東玉川地区などの住民24人が、JR東海が２０２７年開通を目指すリニア中央新幹線（以下、リニア）の建設工事差止めを求め、東京地裁に提訴した。
　リニア裁判は、①2016年５月提訴の行政訴訟（事業認可取り消しを求める）、②2019年５月提訴の、南アルプス市の住民による「リニア工事差し止め請求」民事訴訟、③２０２０年１０月提訴の、静岡県民による「リニア工事差し止め請求」民事訴訟、④そして、今回の裁判。








　リニア計画は２０１４年10月に事業認可され、作業ヤード、取付け道路、立坑や斜坑の建設は進んでいるが、本丸であるトンネル掘削はほとんど進んでいない。だが早ければ今年度、東京都の品川駅近くの立坑（深さ83メートル）から直径14メートルの巨大シールドマシンが発進しトンネル掘削を開始する。月４００メートルの掘進ならば、約８キロ離れた田園調布の地下は１年８か月後に掘削されることになる。

●「周知しました。ＪＲ東海のＨＰで」→「誰が読むんですか！」
　
　住民がこの計画に気付いたのは２０１８年８月。
　一方で、リニア計画が国交省に事業認可されたのは２０１４年１０月。ここに至るには、２０１１年、環境影響評価方法書の住民説明会や、２０１３年の環境影響評価準備書の住民説明会が各地で開催された。
　また、事業認可後も、「大深度」（地下40ｍ以深）をトンネル掘削したいＪＲ東海が、その手続きの一つとして大深度使用に関する住民説明会を開催したのは１８年５月。

　つまり、今回の裁判の原告団長の三木一彦さんも含め住民がリニア計画を知ったのは、そのあとということになる。つまり、１１年と１３年と１８年の住民説明会には参加していなかった。
　
　その理由は簡単で、「知らなかった」から。正確には「周知されていなかったから」だ。

　１８年８月。三木さんはすぐにJR東海の工事事務所を訪ね「改めての説明会の開催を求めた。
　１週間後、ＪＲ東海から電話。

「すでに開催したので、説明会は行いません」
ーー私たちはその開催を知らなかったんですよ。
「周知しました」
ーーどうやって？
「ＪＲ東海のＨＰに掲載しました」
ーーいったい、誰がそれを読むの？
「大田区の区報にも掲載しました」

　三木さんが後日これを確認すると、確かに、区報には掲載されていた。だがそれは、名刺サイズの大きさで、しかも「リニア」という言葉を使っていないお知らせで、ほとんど誰も気づかなかったのだ。

　その後、三木さんが市民団体を結成し、裁判に至るまでの過程は「サンデー毎日」７月１８日号の記事を参照してほしい。

　ただ、一つだけ強調したいのは、２１年６月８日に東京都品川区で開催されたJR東海の住民説明会に三木さんは初めて参加したのだが、ＪＲ東海の説明に不信を抱いた。

★リニアと外環の共通点は、ルート直上のボーリング調査を１Kmに1本程度しかしていない（目安は100～200ｍ）のに、ＪＲ東海は「地下の地盤はすべて把握している」と明言したこと。
★●２０１８年の大深度説明会では「地表に騒音も振動も起きない」と明言していたのに、２０２０年の調布市のシールドマシンによる振動、騒音、陥没、空洞事故を受け、さすがに「騒音や振動」の発生は認めながら「24時間の工事をさせていただきたい」と明言したこと。

また

★説明会の開催前には、その周知としてお知らせをポスティングしたとJR東海は説明したが、実際には、虫食い状態にしか配布されていなかった。三木さんがそれをJR東海の工事事務所に問い質すと、電話に出た職員は「それがJR東海の方針です」と明言した（録音データあり）。

★さらに、説明会終了後には、説明会で多くの質問や批判が飛び出たのに、JR東海は記者ブリーフィングで「住民の理解を得た」と発言した。

　三木さんは「あれだけ反対意見や質問を出した私たちが理解したことになっている」と憤りを隠さなかった。

●記者会見
　提訴後の記者会見では、梶山正三弁護士と４人の住民が記者会見に応じた。

←左から、小川さん、三木さん、梶山弁護士、松本さん、朝倉さん。

　自宅直下をリニアが走る東玉川の朝倉正幸さんが「もう今から不安で眠れないです」と語れば、数年前に自然豊かな環境（すぐ近くに林のある公園、そして多摩川が流れている）に惹かれて家族で田園調布に引っ越した小川優香さんは「子どもたちの大切な林や川への悪影響が心配。地域全体の資産価値の下落も心配です」と発言した。
　松本清さんは「工事計画は降って湧いたような話。あり地獄のように土地が陥没する不安がある」との心配を吐露した。
　　三木さんは「外環の陥没現場は前後１Kmでのボーリング調査がなかった。それも陥没の原因。ＪＲも東玉川では一本もボーリングしていない」とその杜撰な事前調査を報告した。

　この４人に限れば、朝倉さんと松本さんの自宅はルート直上。三木さんが直上から20ｍ、小川さんが10ｍと、いずれも、調布と同じような事故に巻き込まれる可能性があり、それ以前、工事の振動や騒音に２４時間悩まさせる可能性もある。

　弁護団のひとり、梶山正三弁護士は、19年５月に山梨県南アルプス市の住民が提訴したリニア工事差止め裁判の代理人も務める。梶山弁護士は、山梨裁判での出来事として「リニアは地震対策がなっていないのでは？」と質問したら、ＪＲ東海が「それは抽象的危険だから回答しない」と回答した事例を紹介し、「企業として信じられない姿勢で臨んでいる。これは絶対に止めなければならない裁判です」と強調した。




　ちなみに、梶山弁護士が書いた訴状は、山梨裁判の訴状と同じように、「梶山節」で溢れている。
　すなわち、
★被告の言い分は、”絵に描いた餅ないし妄想”だ
★被告の愚かさは”死ななきゃなおらない”というレベルに達している。
★被害者の苦しみを単なる気のせいにして、永久に救済の道を閉ざしてしまう。正に”地獄のお告げ”に違いない。

　だが、これほどまでに正義感に溢れる訴状もなく、原告も「裁判の訴状はこんなに面白いものなのか。一気に読んだ」と、一般市民が読んでも判り易い表現に努めている。法廷での梶山節にも注目したい。
　おそらく第１回口頭弁論は９月か１０月。
　そして、この裁判を機に、かつての田園調布のように、今でも自宅の直下をリニアが走ることを知らない住民は数多い。裁判は、その人々への周知となるはずだ。

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