リニア、「山梨実験線環境影響調査報告書」その２

　山梨県でリニア実験線が稼働したのは1997年（拙著「悪夢の超特急」では、間違って1999年と書いてしまいました。本が重版されたら訂正します）。
　その7年前に、ＪＲ東海などが「山梨実験線環境影響調査報告書」を出していますが、まだ環境影響評価法が成立していなかったとはいえ、本当に、各環境予測をあっさりと描いております。

　全部で１３４ページあるＰＤＦファイルですが、先日、あるソフトを使い、それを1ページずつバラバラに分割して、最低限でも読んでおくべきページを、このブログにアップできるようＪＰＧ形式に変換してみました。

　先日は、そのうちの、水資源についての予測をアップしました。
　ここに書かれている「棚の入沢」は、リニア問題と対峙している関係者にはおなじみの地名となり、完璧に渇水していることは広く知られています。
　また、よく読んでみると、

「秋山カントリークラブ付近の沢において、減渇水が確認された」

　とも書かれています。
　この「秋山カントリークラブ」とは、上野原市にあるゴルフ場ですが、リニアの取材を通じて知り合った人の家族がたまたまここに勤務しており、その人の案内で、2013年、その沢を見に行ったことがあります。確かに渇水しておりました。



　だが、１９９０年の予測では

「この区間の地質は全体的には良好である。しかし、付近の断層の影響により一部基盤が風化していることも考えられ、暮ヶ沢が影響を受けることが予測される」

　となっています。しかし、暮ヶ沢は枯れず、予想になかったカントリークラブの沢が枯れた。つまり、予測は外れたということです。


●その他の予測

　この報告書に書かれている、その他の予測を列記します。

★植物についての予測



　概して、どの項目も「影響は少ない」と予測していますが、高山植物についてだけは、「工事施工前に調査を行い、指定植物が路線上に確認された場合は、移植等の保全対象を講ずるものとする」と書かれています。
　これが実際にはどうであったのかを確認したいところです。


★大気汚染



「大気汚染の原因となる設備は設置しないので、大気汚染により周辺地域へ影響を与えることはない」

　と書かれています。実際はどうなのかを確認したいです。ボイラーなどは使っていないのか？


★地盤沈下



「影響はない」と書かれています。


★土壌汚染



「問題はない」と書かれています。


★日照阻害



「高い構造物と近接した住宅の居住者及び農作物への日陰の影響が考えられる」

　この予測は、図面を引く時点で容易に可能であり、実際にその通りのことが起こったわけです。
　日陰となった住宅にすむ家族には、30年分の補償金が一括で支払われました。


★排水


　実験センターからの排水も、車両基地からの排水も「周辺河川への影響はほとんどない」。
　トンネル湧水については、「トンネル周辺の河川の水質調査結果により、有害物質は含まれないと考えられる。したがって、周辺河川への影響はない」と書かれています。
　これも確認したいところです。


●予測に対する対策は

　これら予測に対して、報告書では最後の方で、講ずるべき対策を描いています。


　◆地盤沈下については、
　切取施工等に伴う、周辺地盤のゆるみによる局部的な地表沈下、あるいは、 かぷりの少ない卜ンネルの掘さ く時に、 地表沈下が生じないよ う適切な設計及び施工法を採用する。
　
　◆ 水資源については、
　工事中の水資源に関する影響のうち、トンネル掘さ<に伴う水枯渇については、第4、4・6水資源の項で述ベたとおりである。その他高架橋の掘削等の工事においても井戸等の水位低下等を起さないよう、設計、施工に十分注意して行う。万一、明らかな影響が発生した場合は、従来の鉄道建設における例に準じて対策を講ずる。

　◆土壊汚染
　工事施工上、止水、地盤強化等のため、地盤凝固剤を使用する場合(薬液注入工事)は、周辺地域への影響が生じないように、「薬液注入工法による建設工事の施工に関する暫定指針について」(昭和49年7月15日運輸省官安第146号）　(昭和49年7月10日建設省官技第161号)に従って行うこととする。

　◆発生土（残土）の処理
　卜ンネル工事等に伴う発生土の処理については、運搬経路、運搬量、安全対策、環境対策等を勘案して土捨場を選定するとともに、土捨計画により排水設備、土抄流出防止、のり面防護等の必要な環境保全上の対策及ぴ防災措置を講ずる。


●市民にできることは？

　こうして整理してみると、ジャーナリストや環境市民団体などができることはけっこうあるように思います。
　山梨実験線における、ＪＲ東海の予測が当たったのか、外れたのか。
　外れたのなら、その原因は何か。それが、今後の工事への対策へと活かされているのか？
　「影響がある」との予測が当たったのであれば、やはり、今後の工事への対策が練られたのか、練られていないのかの確認。
　騒音、振動、土壌や河川の汚染度合いの調査（今からでもできます）。
　これらの確認もまた、これからのＪＲ東海や国交省との対峙に必要な材料になるのではと思う次第です。

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