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●リニア裁判、始まる

 9月23日に行われたリニア裁判「ストップ・リニア! 訴訟」。
 すでに多くのメディアやインターネットで基本的な情報が流れているので、ここではそれを繰り返しませんが、個人的に感じたことも含め、ポイントを整理してみます。

 第一回口頭弁論は14時半から、東京地方裁判所でいちばん広い103号室〔98席〕で始まりました。
 私は地裁に13時半前に着いたのですが、その時点で、すでに傍聴券を求めるために100人以上が集まっていました。なかには、久しぶりに会う地方在住の方もいたのですが、ざっと3分の2以上は初めて見る方々でした。結局、傍聴券の抽選に並んだのは237人。私は運よく傍聴券を手にすることができました。

入廷行動←抽選前の原告団の入廷行動

 第一回口頭弁論では、原告側から、川村晃生原告団長と6人の弁護士がそれぞれ違う問題点に特化しての陳述を行いました。
 ざっと短く書けば、
 川村団長は「今後の工事で、残土、水枯れ、騒音などの被害が起きるのに、これまでの住民説明会や環境アセスでも、それでもリニアが必要との合理的説明がなされていない」と陳述し、
 弁護団の中心弁護士である関島弁護士は、従来、リニア建設に必要な名古屋までの約5兆5000億円は、JR東海の「自己資金で賄う」との公言が認められたことも事業認可に至った一因であるのに、今年6月、国は突然、JR東海への財政投融資による2年間で3兆円もの融資を決定したことから、「実質的に国家事業になった。国会審議を経ないのは民主主義に反する」と訴えました。
 被告の国からは特に反論はなし。
 ただ気になるのは、本訴訟は、リニア計画の事業認可取り消しを求め国交省を訴えたものですが、原告は当然JR東海の出廷も望んでいるわけです。 これについては、公判前の9月21日、JR東海が「補助参加人」として裁判に参加することが決まり、今後、具体的なやり取りが展開されそうです。
 
記者会見←公判後の記者会見。右から二番目が川村団長。3番目が関島弁護士。

●知らない裁判長。古田孝夫裁判長の過去の判決は?

 ところで、弁護団が驚いたのが、この裁判を始める前のある程度の時間(数カ月間?)、裁判長と進行協議を重ねてきたのに、14時半の開廷で、扉の向こうから入ってきたのが、初めて見る裁判長だったこと。
「いやあ、びっくりしたあ」
 と関島弁護士は振り返りますが、どうやら裁判長の異動があったようです。
 これが裁判が始まってからの裁判長の異動なら事前通知がありますが、今回は、裁判前の異動だったので、その通知もなかったとか。なので、今回の裁判長の名前も弁護団は知りませんでした。
 その古田孝夫裁判長が過去にどんな判決を出す傾向の人かは今後調べてみるそうです。

 試しに、古田孝夫で検索してみると、私もかつて少しだけ取材をしたことがあるアスベスト労災問題で、以下の判決を出しています。

アスベスト(石綿)の吹きつけ作業に従事し、じん肺の一種「石綿肺」を発症した男性(当時60歳代)が自殺したのは、闘病苦が原因であり労災にあたるとして中国地方在住の妻が、労働基準監督署による労災不認定処分の取り消しを求めた訴訟の判決が26日、岡山地裁でありました。古田孝夫裁判長は「10年以上にわたる症状悪化や石綿疾患による同僚らの死で心理的ストレスが過重だった。うつ病の発症と、石綿肺の原因である業務との間に因果関係が認められる」として、国の処分取り消しを命じました。石綿疾患の患者の自殺が労災認定された事例はありますが、司法判断による認定は初めて。支援団体の調べでは、同関連病を巡る自殺は、今回のケースを含めて少なくとも6件あり、患者への支援の重要性が改めて問われることとなります。
(http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:tjaMr65H_1gJ:www.o-roumu.com/page_047.html+&cd=15&hl=ja&ct=clnk&gl=jp から)

 また、以下の判決も。これは特筆すべきです。

岡山地裁(古田孝夫裁判長)//国 原爆症審査ずさん 岡山地裁 30万円賠償命令 2014年4月24日


 爆心地から二キロ以内に入ったことを証明する重要な資料を二度も見落として原爆症認定申請を却下したのは違法として、長崎市で被爆した岡山県の男性(72)が国に計三百万円の賠償を求めた訴訟の判決で、岡山地裁は二十三日、男性の請求を認め、国に三十万円の支払いを命じた。国の認定審査のずさんさが浮き彫りにされ、被爆者からは抜本的な改善を求める声が上がっている。
 原告側弁護士によると、原爆症認定訴訟で国家賠償が認められたのは一九九八年の京都地裁、二〇〇九年の広島地裁に続き三例目。これまでの二例は認定の判断を問うもので、資料の見落としが明らかになったのは今回が初めて。
 判決などによると、男性は三歳の時に長崎市で被爆し、その日のうちに行方不明の家族を捜すため爆心地から四百メートル地点へ入った。国が二〇〇八年に定めた原爆症認定基準の「原爆投下より百時間以内に爆心地から約二キロ以内に入市した者」という要件に当てはまるが、同年に前立腺がんや白内障などについて原爆症認定申請をすると却下され、二年後に行った異議申し立てでも認められなかった。
 男性が一一年、却下の取り消しと慰謝料を求めて提訴すると、有識者による国の認定審査会が男性から提出されていた「入市証明書」を二度とも見落としていたことが判明。翌年、国は男性を認定した。

 古田孝夫裁判長は、「行政には証拠資料を十分に精査しなければならない職務上の法的義務があり、過失は明らか」と国の責任を認めた。
 「資料の見落としがなければより早期に原爆症に認定されていた可能性が高い」とし、国に慰謝料などの支払いを命じた。(http://fpmario.blog.jp/archives/37732917.htmlから)

 これを見る限りは、裁判資料をよく吟味をする裁判官との印象がもたれます。
 

●もう一つのJR東海がらみの裁判。JR東海の勝訴。

 大阪府摂津市がJR東海と大阪地裁で係争中であったことはこのブログでも伝えてきました。
 詳しくは、こちらの過去のブログを読んでください。
 一昨年に提訴し、地裁で公開、非公開の審理が続いていましたが、今月の9月2日、判決が出ました。
 摂津市の敗訴です
 私は、この件については、摂津市の肩を持つものではありませんが、外部の第三者として客観的に見た場合、JR東海に分はないと思っていました。
 この裁判での争点は二つに絞られます。

1. 摂津市と旧国鉄(及びJR東海)との間にかわされた環境保全協定は、摂津市との約束である以上、摂津市以外の土地で井戸掘削をしても問題ない。
2. 地下水に自治体ごとの境界があるはずもなく、車両基地の摂津市の敷地の隣接地で地下水を揚水すれば再び地盤沈下が起きる。環境保全協定の主旨は、車両基地及び周辺地の地盤沈下を防ぐことにある。

 摂津市が旧国鉄と協定を結んだのは、それ以前の地下水揚水で実際に地盤沈下が起きたからです。ということは、車両基地での再びの地下水揚水はそれを再度引き起こす可能性がある・・と裁判所は判断するのではと摂津市は予測していました。しかしーー

 9月2日。判決のために入廷した裁判長は、「原告の請求を棄却する」とだけ言って退廷しました。

 原告や被告の主張や論点の整理などがなされた判決文は72ページあるようですが、

 判決後、摂津市の森山一正市長は「過去に甚大な地盤沈下があった事実を無視した判断は承服しがたい。地盤沈下しないとの担保がない限り、取水は認められない。控訴を検討したい」と話し、JR東海は「いつ起こるとも分からない災害に備え計画を進めたい」との談話を出しています。

 本日、摂津市役所生活環境部の北野人士理事に電話したところ、「属地主義に基づいたとても形式的な判決でびっくりしました。そもそも、地盤沈下の危険性については何の評価もしていないのが残念です」と話しました。
 JR東海は、地盤沈下が起きないように、地下水位のモニタリングを常時行うとの指針を出していますが、摂津市としては、これまでのやりとりから、その信頼感がもてないのです。

 今現在のJR東海の井戸掘削の進捗ですが、地下水を飲料水にするためのプラントを建築しているとのこと。
 JR東海は、リニア中央新幹線と同じ理由で、水に関しても「二重系化」(上水道+地下水)を行い、いざというときの水不足にも備えたいとしています。
「確かに、摂津市がJR東海に供給している上水道が枯渇した場合などに限り、その地下水を使うというのであれば話はまだ分かります。しかし、JR東海がやろうとしているのは、常時、地下水を飲料水に換えるということです。そのために、周辺地域が再び地盤沈下するのではたまったものではありません」(北野理事)
 
 補足説明ですが、これまで当ブログでは、JR東海の車両基地での水使用は車両の洗浄のためと記載していましたが、正確には以下の通りでした。
・車両の洗浄には工業用水を使用している。
・摂津市が供給する上水道はほとんどが、新幹線車両内で使う飲料用水や基地内の施設への水道として使っている。
 ここに訂正いたします。

●「仮」残土置き場ではなくて本当の残土置き場?
 さて、9月23日の裁判には各地から関係者が訪れましたが、長野県大鹿村からは、今後のトンネル掘削の現場に近い釜沢集落の谷口自治会長もいらしていました。
 谷口さんからの話で驚いたことがあります。
 JR東海の環境影響評価書によれば、大鹿村では最大時で1日に1736台も工事用車両が村を通過します。だがこれは村の生活を破壊することから、住民説明会では幾度もこの件で住民からの不安や不満が出されました。そこでJR東海が提案したのが、村内に仮残土置き場を数カ所設置して、1736台を1350台くらいにまで減らすという案です。1350台でも生活破壊は変わらないとは思いますが、谷口さんが驚いたのは、釜沢に仮残土置き場ではなく、「本」残土置き場を設置すると数日前にJR東海から知らされたことです。
 いったいどういう経緯で? これはJR東海、役場からのそれぞれの説明を聞いてはうやむやになりそうなので、至急、調査に入るようですが、住民にはまさに「寝耳に水」。
 この件では10月上旬当たりにあらためて説明会があるようです。
 それにしても、次から次へと出てくるなあ。

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●記事がスマホ用テレビ番組に?

 2週間前の週刊SPAに「非正規公務員」を巡る労働環境についての特集記事を書きました。

 事例として
・長崎県。6年半の間、ずっと同じ仕事をしていたのに、2カ月ごとに雇用主が替わり67回もある二つの部署をいったり来たりさせられた女性。これは、どう考えても県が女性を社会保険に加入させるのをけちったためと思われる。

・組合活動をしたことで、年400時間の非正規雇用から、年40時間の労働時間しか与えられない職場に新規任用された職業訓練校の女性。

・正規職員とまったく同じ仕事をしているのに、年収が3分の1の学童保育指導員。

・ハローワークの優秀な職員だったのに上司と対峙したら雇止め。今度は自分が求職者としてハローワークに通うことになった。
 今、国の通知で、ハローワーク職員は、3年働いたら、一部を除き雇止めになる。

・安泰と思われている国家公務員、しかも中枢の霞が関で働く職員も残業だらけ。過労死レベルもいる。

 等々を書いてみました。

spa記事1 spa記事2 spa記事3 SPA記事4

 とはいえ、そのことを今更ここでお知らせするのは、それを読んだテレビ朝日系のスマホ専用チャンネルが、10月8日に2時間枠でその内容に即した特番を放映することになったから。

 番組の司会者はあの「みのもんた」さんらしい。番組がコンタクトしてきたのは私ではなく、記事の中に登場する長年この問題に携わる運動家ですが、それにしても、記事をそのままパクるようにテレビ番組にされることはままにしてあるが、こうやって連絡してくれるのは良心的。

 詳しい放送日時はまた通知しますが、

 私がこの「官製ワーキングプア問題」を始めて取材したのは約10年ほど前ですが、そのときは、どの編集部にもこの企画は100%通りました。というのは、「公務員にワーキングプアがいるのか!」と、一般人も出版社でもその存在をほとんど知らなかったからです。います。今や公務員の約3割が年収200万円以下の非正規。中には職員の7割が非正規というお役所もあります。

 もっとも印象深かった官製ワーキングプアの取材者は、埼玉県の某市立学校に勤務していた先生。時給は1500円とそれほど悪くないものの、一日当たり最長で5時間しか働かせてもらえず(職員会議にも参加できない)、春・夏・冬休みなどの長期休暇では労働時間ゼロになるため、賃金もゼロ。年収80万円で生活保護を受けていました。
 こんな事例はおそらくまだまだあります。

 なぜ官製ワーキングプアが増えたかについては、数年前の「世界」(岩波書店)に掲載した記事に詳しく書きましたが、それはおりをみてアップします。簡単に言えば、経費節約の「道具」だということです。 
 非正規公務員のお給料は、払う側の会計には「人件費」として記録されません。「物品費」との名目で記録されるのです。だから、安く使える非正規公務員をいくら大量に雇おうとも、表向きは「人件費」は増えたことにはならず、中央政府にも「我が自治体は公務員の削減に取り組んでおります」と報告できるわけです。

 これをもっと意図的に汚く行っている自治体のこともそのうち記事にしたいですが、今は、なかなか掲載先が見つからないのが痛いところです。

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2016/09/19 14:18 労働問題 TB(0) コメント(0)
●JR東海、残土埋め立て計画を撤回

リニア関係者には知れ渡っていることですが、2016年6月8日、長野県豊丘村の小園(おぞの)地区の沢筋である「源道地」をリニア工事からの残土埋め立候補地と計画していたJR東海は、計画の撤回を表明しました。

 撤回に至るには小園地区の住民運動があったのですが、それを主導したのは村でも村議会でもなく、住民自身です。

 単に説明会で懸念を表明するだけではなく、日常の生活において行動することでJR東海にして軌道修正をさせたのです。

 時系列で説明しましょう。

 村は県に対して、『本山』『戸中』『道源地』の3カ所を、リニア工事から排出される残土処分の候補地として報告していますが、前者の二つはいわば無人の土地であることから(地権者はいる)候補に挙がったようです。そして源道地については、人口約560人という小園地区の住民が知らぬ間に候補地になっていました。

 それは、小園地区の上流にある伴野原(とものはら)自治会(世帯数10数軒)が、2013年9月26日、村に対して『源道地」にある二つの沢を埋め立てるよう「リニアトンネル残土を利用した災害防止策等のお願い」と題した要請文を村に提出したからです。

 その内容を簡単に書けば、伴野原は谷が多く、大雨などで土砂災害が起きた場合、谷の近くに立つ家屋の安全ではないこと、谷間に有害獣が生息しやすく農業被害が相次いでいるので、残土を利用して谷を埋めて平地を作り出したい…といったものです。

伴野原自治会の要請 ←伴野原自治会の要請書

小園埋め立て予定地地図 小園航空写真 ←小園地区の地図と航空写真。地図の黒い太枠が埋め立て候補地だった。航空写真のボールペンの上の赤枠も同じ領域を示している。候補地のすぐ脇が伴野原。候補地の下流が小園地区。青い線が川。右を盾に貫く黄色い線はリニアルート。


 それにしてもタイミングとしてはとても早い。
 JR東海の環境影響評価準備書が公開されたのは2013年9月18日。これで大雑把なリニア通過ルートは明らかになりましたが、その1週間後にはもう上記要請文の提出。準備書の公表直後から地域の幹部が集まり文案を練ったのだと思います。それだけに、これはけっこう切実な問題と捉えることもできますが、個人的には、谷を埋めたとしても、山を何とかしない限りは災害時の被害は防げないし、平地になったとしても有害獣の往来は変わらないと思います。


●はじめは質問もできなかった住民

 ともあれ、小園の住民が、源道地が残土捨て場候補になっているのを知るのは2015年6月3日。この日の18時半から、JR東海が残土埋め立てについての地区説明会を開催。
 2つの沢のうちの一つ、牛革川には40万立米、もう一つの南之沢には25万立米の残土を埋めたいという説明でした。

 これを聞いたとき、住民の大沢俊郎さん(75)も原道治さん(79)も含め、集まった40人余の住民からは特に反対意見は上がりませんでした。というのは

「説明内容が大雑把でよく理解できず、質問するにも至らなかった」(大沢さん)からです。

 しかし、どちらの沢も竹藪などで荒れているので「治山効果はあるのかな」とは思ったようです。

牛革沢 ←牛革川。といっても、竹藪で荒れていて川までたどり着けない。それでも保安林指定を受けている。青いシャツが大沢さん。

 その住民になぜ埋め立て反対の火が付いたのか。これには様々な要因があります。

 一つは、大沢さんが高校2年生の時に、母親を土砂崩れで亡くしていたことから、以来、土砂崩れなどの天災にはいつも敏感に構えていたことです。そこで住宅街から最短距離で100メートルの場所の沢を残土で埋めて積み上げれば、大雨や洪水で、残土が集落を襲うのではないかとの不安も覚えていました。そこで、大沢さんたち住民は山梨県のリニア実験線周辺での残土捨て場を見学したり、防災の権威、京都大学防災研究所のデータをもとに勉強を始めます。
 また、地区の某建設業者も「あそこに残土を置くのは、土木工学上、絶対によくない。頭の上に金魚鉢を載せて歩くようなものです。絶対にダメです」と住民に説明していたことも理解の材料になりました。

合流地点 ← 二つの沢に残土が埋め立てられ、積み上げられ、いざ崩壊すると、これら川を下って膨大な土砂が集落を襲うことになる。

 そして2016年1月18日。JR東海が具体的な図面をもってきての再度の説明会を開催。ここで初めて大沢さんは質問をしますが、他の住民からも賛成意見は一つも上がらず、JR東海からは要を得た回答がないことから、住民は「これは安全ではない」と確信するに至ります。

 翌月の2月末。リニア計画に反対する一部住民グループが残土の危険性を訴えるビラを戸別配布します。

「あれで火が付いた。なんとかせにゃと」(大沢さん)

 さらに住民感情を逆なでさせたのが、翌3月14日。
 村議会で、吉川明博議員が村長に対して「埋め立てに反対している(伴野原の)住民がいる」と問いただしたところ、村長は「リニア計画に反対するために、後付けで残土埋め立てに反対しているだけ」と答弁。ところが、村では村議会が有線放送でライフ放送されているため、当然、小園の住民もこの放送を聞いてカチンと来たわけです。


●残土埋め立て反対の署名始まる

  4月12日。リニアに反対する住民グループは、伊那谷の地形に詳しい桂川雅彦さんを講師に招いての勉強会を開催。約50人の住民が参加し(うち小園からは29人)残土で沢を埋め立て、積み上げることの危険性を徐々に理解することになります。
  そして、勉強会のあと、今回の件での最大問題は「村が、自分たちに断りもなく県に報告をしたことに尽きる」と判断した住民は「なんとかせにゃ。でも何をやる?」と大沢さんを中心に相談に入ります。

「これは取り下げてもらうしかない」
「では、署名をやるか?」
「そうはいっても、いきなり今日からはできない。明後日、また集まろう」

 と4月14日に小園住民が9人、加えて近くの団地から数人が参加。

 ここで打ち出された方向性は以下の通りです。

「リニア反対派との方向性は同じだが、住民のなかには反対派へのアレルギーもある。『反対』という言葉が運動に入ってしまうと、逆に村長も構えてしまい、問題の解決には至らない。今回はあくまでも、源道地を残土で埋める候補地から外してもらう運動にしよう」

小園反対署名


 こうして、小園では「リニア残土NO!小園の会」(原さんが会長。小沢さんが事務局長)を発足し、候補地取り下げを村に求める署名活動を開始します。
 これは戦略でもあるのですが、じつは、大沢さんにしても原さんにしても、「一度は走るのを見てみたい」(大沢さん)、「私は一度は乗りたい」(原さん)と言うように、本当にリニア計画そのものを否定していません。
 小園の会の運動は、あくまでも、残土埋め立てだけに焦点を絞ったものでした。

 小園地区は地区が22の隣組合に分かれていますが、9人はそれぞれ手分けして隣組合の一軒一軒を回り、4月下旬までに、全住民の約7割に当たる391人(129世帯)が署名をします。
 この署名を後押ししたのは、いみじくも、署名活動を始めると決めた4月14日に熊本県で起きた熊本地震です。あの地震で大規模な土砂崩れが発生し甚大な被害を生み出したことは「対岸の火事ではないんだと、追い風になりました」(原さん)

 また、4月27日には、JR東海の職員が大沢さん宅を訪れ、沢での調査立ち入りを求めたが、大沢さんはこれを断ったことで、JR東海も住民側の意思を知ることになります。

 しかし、その署名を提出しても、さらには「小園の会」が村長と総務課長とで非公式に2回会合をもっても、村長の「取り下げはしない」との意思が変わりませんでした。

●撤回なる

「これではラチがあかん」
 
 「小園の会」が次に実行したのが、5月31日、村議会に対して「リニア中央新幹線トンネル工事発生土処分候補地の報告取り下げを求める請願書」を提出したことです。

小園取り下げ請願書

 この請願書は、まず6月13日、村の議会の一委員会である「リニア特別委員会」(といっても、構成メンバーは全議員の14名)に諮られ、欠席の一人と議長を除いての7対5の賛成多数で採択されました。
 ところが21日の本会議では、6対6の同数となり、議長採決で不採択となりました(これは請願の紹介議員でもあり、13日には賛成した議員が、その後「紹介議員を下ろさせてほしい」と大沢さんに言ってきたことから、大沢さんの「では、それらしい対応を」との要請に応じて採決を退場。さらに、13日に病欠した議員がこの日は出席して反対したため。何かがあったのです)。

 だが、小園地区の住民への朗報はその5日前の6月8日に既に伝わっていました。
 その日、JR東海から村に対して「源道地については、候補地として事業を進めることが困難である」との報告があり、同日、村の調整会議において候補地から外すことを確認していたのです。小園地区の住民の動き、そして伴野原でも埋め立てに同意しない地権者もいたことでの結果と言えましょう。

 それでも、なぜ13日に採決が行われたのか。
 リニア特別委員会では、請願に対しての以下の賛成討論が記録されています。

「請願の発端は、下流の住民に同意の確認なく村が行った県への報告であり、県及び村の対応に対し不透明さを感じる。この請願の目的は、県への(候補地)報告取り下げであり、源道地候補地を埋め立てる計画が白紙になっても目的は達成されておらず、住民の意見が反映されていない」

 つまり13日の採決は、「住民の意見を反映した」との作業をきちんとやったということです。


●運動のポイント

 小園での動きにはいくつかのポイントがあります。

1.署名でリニア計画の是非を問わなかった。あくまでも残土計画への是非だけを争点にした。

2.既存のNPOや市民団体に頼るのではなく、住民主体で運動を進めた。署名だけに頼らず、首長に会うことも厭わなかった。

 これは私が常々思うことですが、リニア計画に反対する市民団体はいくつも存在します。それは主に、地域の枠を超えたNPO的な市民団体です。しかしながら、地域に根差している住民組織ーー自治会や住民グループなどーーに目を向けると、日常生活のなかで『反対』や『異論』を唱える事例はほとんどありません。
 反対意見や異論は、主に、ある意味「公」の場であるJR東海の住民説明会において噴出することはありますが、日常生活の中での住民運動はほとんどないのが実情です。

 これは、異を唱えた瞬間から息苦しさを味わねばならない日本の田舎の特性が大きく作用しますが、他の社会問題(すべてではないにせよ、ダム、高速道路、原発などの計画)と比べても、リニアの場合は地域に根差す住民からの異論は少ないように思います。
 リニア計画での住民の声としてもっとも多いのは「懸念」です。
 これは、「この不安を何とかしてください」といった、条件闘争的なニュアンスを漂わせることもあれば、ほとんど反対に近い意志表明の場合もあり、解釈の幅は相当に広いです。だが、はっきりと「違う」と表明することは、これからも地域社会で皆と足並み崩さぬように生きるためには、なかなかできないことです。

 小園では、それを「残土埋め立て反対」の一点で実現した。これは注目したい。「リニア反対」の運動ならおそらく署名以前に運動が成り立たなかったはずです。

 もっとも、私の狭い経験でも、堂々と異を唱えている住民はいます。

 リニア計画に反対して立ち木トラストを始めた山梨県中央市の内田学さん、同じく、土地トラストを始めた神奈川県相模原市鳥屋の栗原晟さんは、市民団体の協力を得ながら一人の住民としてJR東海と対峙しています。

 また、立ち退きを拒むため、JR東海や自治体からの一切の個別交渉を拒み、窓口を一個人に集約したのは、山梨県富士川町小林地区や山梨県中央市布施第5自治会。

 また、リニアルートの騒音や電磁波の被害を軽減するために、ルートの両側100メートルを緩衝地帯にすべきだと主張しているのが、山梨県南アルプス市の戸田地区、それに隣接する宮沢地区。戸田地区では、JR東海の住民説明会があまりにも杜撰だったことから「この説明会はなかったことにしてほしい」とJR東海に伝え、今に至るも説明会は開催されていません。
 ともあれ、100メートルの緩衝地帯を設置することはそれだけ立ち退き対象家屋が増えることを意味していますが、戸田、宮沢地区は「立ち退きする家族の集団移転」も立ち退きの条件に挙げています。
 これは一見条件闘争に見えますが、この条件をJR東海も収用を担当する県ものむはずがなく、実質的には、近い将来「リニア反対」運動に展開すると予想してます。


●大鹿村でも動く

 ここ最近の事例では、大鹿村が挙げられます。
 大鹿村は、南アルプスのトンネル工事で排出される残土を運ぶダンプなどが一日最大1736台(平準化しても1300台前後)も走るという、静かな環境に住む住民にすればなかなか非現実的な環境に放り込まれることになります。
 だが、大鹿村ではJR東海の住民説明会ではいくつも反対意見や異論が噴出しても、日常生活での反対運動はほとんど見られません。
 一つには、平成の大合併を受け入れるか否かで、賛成・反対を巡って村の雰囲気が悪くなったという経験をしているため、「あの二の舞だけはしたくない」というのが多くの住民の共通感覚のようです。だから、高校生が住民説明会で熱心に訴えた「住民投票」にしても、「気持ちはわかるけど、やれない」と何人もの大人が私に語ったものです。

 また、JR東海は、住民説明会、リニア対策委員会、工事事務所での対応などで総合的に「住民が理解したかを判断する」と言いますが、ある一面、それを完全否定はできません。というのは、工事事務所は土日祝日を除いては毎日空いているのであり、そこに住民がしつこく「納得できない」と詰めれば、それはそれで、理解も合意もしていないという事実を積み上げることになるからです。しかし、その数も少ない以上は、少なくとも「反対意見は少ない」と解釈されたとしても仕方がない一面はあります。

 確かにJR東海の住民への対応は劣悪と言われても仕方がありません。そして、2年前には「住民の理解を得られない限りの着工はない」とまで言っておきながら「住民が理解したかの判断はJR東海が行う」といった説明に変わっています。
 とはいえ、ここでJR東海を批判するだけでは何も変わりません。
 私は、地域に根差す住民運動こそが問われていると思います。つまり「納得していないぞ」という態度を言葉で、文書で、直接行動で「見せ続ける」ことができるかです。むしろ、それをやらない住民運動は実を結びません。

 その大鹿村で、8月下旬から村民有志による「リニア事業への反対を求める陳情書」という署名活動が始まりました。
 これは、村議会に対して、リニア計画への反対決議を求める署名で、村外の住民でも署名できます。

大鹿村反対署名1
 大鹿村反対署名説明


 ただし、この署名活動に関しては、私はまだ取材をしていないのでこれ以上は書きません。近いうちに関係者からのコメントを得たいと考えておりますが、この署名を足掛かりにさらに別の運動へと発展するのかも注視したいです。

●と書くのは

 とここまで書いてきたのは、過去において、私が取材してきた社会問題に対する住民運動では、やはり、しつこい運動、徹底した実力運動(もちろん非暴力)は計画を止めるか、止められないまでも軌道修正を実現しているからです。
 正直な話、リニアでの、地域に根差した住民運動はそのレベルに達しているところはまだ少ないと感じています。

 たとえば、約20年前の東京都日の出町での廃棄物最終処分場計画。反対する住民は知事との面会を求め都庁のロビーで半年間も毎日横断幕を張った(偉かったのは退去を訴える警備員を敵にしなかったこと。「彼らも仕事だから」と理解し、逆にある種の親近感のなかで占拠は続いた)。工事用道路入り口でも毎日数十人が監視に立った。工事現場での土地トラスト地では舞台や宿泊施設を建設し、運動の拠点とした。

 たとえば、現在の長崎県の石木ダム計画。住民は、強制収容された土地の上にさえ、自分たちで監視小屋を建て県や業者の動向を注視し、工事用入り口道路では毎日女性陣が座り込みをして機材の搬入を防いでいる。収用委員会ですら、委員の入場をさせまいと住民が集まり、実際に7回の審理のうち5回を中止させている。本格着工はなされていない。昨年末から裁判をしているが、年内にもいい結果が出るかもしれない(という情報が入った)。実際、住民は「私たちが諦めない限り、ダムはできない」と信じている。

 たとえば、学校現場での式典(卒業式)での君が代斉唱を拒んだために、停職6か月や60歳からの再雇用拒否された東京都の公立学校の教師たち。彼らは多くの支援者とともに東京都庁に何度も直接乗り込み、警備員に行く手をさえぎられても、徹底して思想や信条の自由を訴えた。その結果、最高裁では東京都教育委員会の処分は異常との判断が示された。

 署名や抗議文などの「文書」だけでは、あのJR東海のこれまでの対応を考えれば、おそらくリニア計画は軌道修正すらされません。
 非暴力でない限りの実力行使がどこまでできるか。と個人的に考えております。
 ただし、運動のヒントとしては、決して「リニア反対」だけにこだわらずとも、「リニア関連の生活被害に反対」ならできるということです。

 ふー。今回も書き上げるのにえらい時間がかかりました…。

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●VFP(平和のための退役軍人会)、高江来訪

 アメリカの反戦団体VFPのメンバー7人が8月末から沖縄に滞在しています。
 おそらく、明日か明後日あたりには沖縄を後にしますが、今回は特に沖縄県東村の高江でのヘリパッド建設の中止を求めての抗議行動のために来訪しました。
 
 下は31歳、上は80歳の戦場経験者たちは、もちろんアメリカ人ですが、なぜ彼らが遠い日本にわざわざ反戦活動に訪れるのか。メンバーたちの何人かに話を聞いたところ、どの人も同じ考えをもっているのですが、その一人、Will Griffinさんの回答が印象的だったので、紹介します。

 Willさんは、母が韓国人、父がドイツ人で、自身はアメリカ陸軍に所属し、イラク戦争に15カ月、アフガニスタン戦争に12カ月従軍。そして戦争が平和をもたらさないことを痛感し、退役します。Willさんはこう語ってくれました。
「僕は韓国人なのか、ドイツ人なのか、自分のアイデンティティでさんざん悩みました。でも今その迷いはありません。なぜなら、僕は何国人でもない。世界人として活動すればいいと分かったんです。だから、沖縄で起きていることは、世界人である以上は看過できません。沖縄の人と一緒に平和を作りたい」

 この視点は極めて正しい。強く感銘しました。

WILL GRIFFIN←WILLさん。辺野古のキャンプ・シュワブ前で。

 9月1日の午後、高江にはいつも通りですが数百人の機動隊が住民と対峙していました。
 9月1日は、安倍政権が、高江のヘリパッドのH工区とG工区に着工すると明言していた日だったので、現場にも100人以上の住民が集まり、工事をさせまいとゲート前で座り込みをしていました。警察車両は警察車両で、村道をふさぐように真横に駐車し、一般車両を通そうとしません。その警察車両の前で、VFPのメンバーは横断幕を掲げて、その一人がスピーチを行いました。
 VFPのメンバーで日本語が堪能なダグラス・スミスさんが通訳をしてそれを住民に伝えていましたが、関心したのは、機動隊という暴力装置を前にして、VFPの言葉が優しかったことです。

 私自身、機動隊のなかにいてもそれほど怖さは感じませんでした。だって、すぐ隣にいる機動隊員はどう見ても二十歳前後。まだ幼さが残ります。「座り込みの住民=悪」と洗脳されていないのでしょう。住民やVFPの言葉に神妙な表情でたたずんでいるのが印象的でした。アメリカだったら、容赦なく殴る蹴るの暴力を行使するようですが。
 VFPもそこを察したようで、スピーチでこう述べています。

「機動隊員の顔を見ると、海兵隊員だった私の若い頃を思い出します。当時の私は、政府の命令には何の疑問もなく従っていました。そして私は対テロ戦争と教えられたイラク戦争に行ったのですが、イラクで分かったのは私がテロリストであったことです。私は民家や地域に対してテロ行為を働いたのです。若い隊員の人は、今晩ホテルで鏡を見てください。沖縄の人を弾圧することにどんな名誉があるのかを考えてください」




 さて、この日の高江も、インターネットの報道でもおなじみのように、機動隊が座り込む住民たちをごぼう抜きにしましたが、ごぼう抜きに至ったということは工事に2時間ほどの遅れを生じさせたことになります。 高江の闘いについての詳しいことは、ネットの他サイトを参照されてください。

  VFPは約5000人の会員を擁しますが、日本の反戦団体よりは大きいとはいえ、アメリカではまだまだ小さな存在です。世間的には「過激な奴らだ」との評価もあるみたいで、なかなか、戦争は文化も社会も環境も壊すという概念が広がりを見せないことも課題のようです。つまり、アメリカ全体ではまだまだ戦争肯定派が多数だということです。それでも、この仲間と会えてよかった、この活動に会えてよかったと、生涯をこの運動に捧げるメンバーたちの覚悟を見ました。

VFP3 VFP2 VFP4 VFP1←最後の写真は、VFPの抗議行動に感激した女性が「あなたたちの今日の行動はなんと私を勇気づけてくれたことでしょう」と感謝の挨拶にきたところ。

 ただ話を聞くと、戦場でとんでもない経験をした人もいて(ここでは、今は書けない)、PTSDをもっている人もいます。ときどき自殺を考えるという人もいます。でも、「そのベストな治療法は、こうやって平和活動を続けることです」。
 どの人もナイスガイでした。また会いたいです。

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2016/09/07 22:08 戦争 TB(0) コメント(0)
●阿智村独自のアセス報告書が出た

2015年8月6日のブログで、長野県阿智村で、村の住民、有識者、自治会関係者で構成された「阿智村社会環境アセスメント委員会」がリニア中央新幹線の工事が始まることで村内の交通がどう変化するかの実地調査を始めたことを書きました。

 委員会の任期は2015年5月1日から2016年3月31日までですが、それら調査をまとめた報告書「阿智村社会環境アセスメント委員会報告書」が、2016年2月4日に村に提出されました。

 8月中旬、この社会アセスの先導役を務めた岡庭一雄・前村長にお会いすることができ、その概要を把握することができました。


●そもそもの始まりは残土運搬への不安

 ご存知の通り、JR東海は2013年9月に「環境影響評価準備書」を、2014年4月には「環境影響評価書」を作成しています。これら報告書に対し、リニア計画沿線周辺の自治体は、JR東海に対して意見書を出したり、要望書を提出しています。

 阿智村では、非常口から排出される残土の運搬に不安が集中しました。

 というのは、非常口(萩の平)から排出される残土を運搬する道は一本しかないのですが、その道「村道1-20号線(1の20ごうせん)」がとても狭い
 これは、長野県大鹿村も山梨県早川町もそうですが、軽自動車同士ですらすれ違いには、道の膨らんだ待機所で一時停止して相手をやりすごすしかない。

1-20号線は狭い 1-20号線は狭い2 1-20号線は狭い3←1-20号線は狭い。これを拡幅しようとすれば、発破作業で山を崩すしかない。

 予定では、この1-20号線に一日最大230台の工事用車両が走り、1-20号線の終点で合流する国道256号線ではそれが一日最大920台になります。
 1-20号線は、地域の高齢者が道路脇にある農地まで通うのに使う生活道路であり、256号線にまで合流するただ一本の道路です。

 当然、JR東海の「評価書」に対しては、村と議会は連名で、14年7月8日に、

★「1-20号線が付近住民の唯一の生活道路であること」
★「1-20号線が走る清内路(せいないじ)地区が大変狭隘な地域であること」
★「道路の幅員が狭く住宅が道路と隣接している」等の事情から、騒音、振動、粉塵等によって住民生活に多大な支障をきたすことが考えられると指摘しています。

 また256号線は256号線で、村最大の観光地「昼神温泉郷」を擁するだけあって、一日920台ものダンプの走行は観光業への影響が避けられないとの見方も強い。

 加えて、国交省が2014年10月にリニア事業を認可したあとの事業説明会においても、住民からの様々な疑問にJR東海はただ「基準をクリアしています」の答弁に終始することから、これで幕を引かせてはいけないと意見を述べたのが、岡庭一雄前村長です。

 岡庭さんは「JR東海は基準をクリアしているからよしとしているが、村のみなさんには村での暮らしや営業がある。その影響を心配しているのです。住民で社会環境アセスを独自にやってみませんか」と提案したのです。

 JR東海は、環境影響評価書に書いてあることが社会的な約束であるとの理由で、どこの自治体とも環境保全協定を結ぼうとしません。
 だが岡庭氏は「村として社会アセスをやって、必要な事項が出てくれば、それへの締結をお願いしたい」と要望。すると、JR東海は「状況によっては締結します」と回答したのです。ま、どうなるかですが。


●初めの社会環境アセス

 岡庭前村長が、村役場の課長職だった1990年代、話ははしょりますが、県営の産廃処分場を村に設置する話が持ち込まれます。
 当然、村には推進派と反対派が生まれます。
 推進側の県は1997年8月から「自然環境アセス」を実施することで準備段階を一つ進めようとする。
 
 だが、火中の栗を拾うことになった岡庭課長が提案したのが、「自然環境だけが問題ではない。社会問題も調べるべき」、「住民自身も学習を重ねるなかで自主的に判断することが望ましい」と、合意形成を産廃処分場の予定地に限定せずに村全体に広げることでの「社会環境アセス」の実施でした。

 村は、県の自然環境アセスを受け入れる条件として、この社会環境アセスを行うことを県に認めさせます。

 村には苦しんでいる一面がありました。それは、
★県との関係性で産廃処分場の設置に正面からNOとは言えない。
★かといって、住民の不安を放置するわけにもいかない。

 「社会環境アセス」は、この究極の二択の間にスルリと入ってきたと言えます。
 そのメンバーは、有識者、村会議員、住民、公募住民など15人の委員で構成され、公募委員のなかには、初めから処分場反対の人間もいたし、慎重な対応を求める住民もいました。
 しかし、委員会は、賛成、反対を言う場ではなく、あくまでも、「事業の役割」「廃棄物の受け入れ・搬入に対する住民のチェック体制」「村政にとっての必要性」「立地選定の民主制」など9つの大項目と25の小項目を、客観的に調査し、最終目的は大雑把に書くと、「事業が実施される場合と、されない場合との、住民生活を含む周辺地域への社会的影響の評価」ということになります。

 社会アセスの実施(97年8月から98年4月)後の2000年、田中康夫県政が始まり、田中県政は、「これを作ったら県財政がもたない」と計画を棚上げにしました。その結果、阿智村には産廃処分場はありません。

●リニアでの社会環境アセス

 そして、2015年、今度はリニアの残土運搬を巡り、再び、社会環境アセスが始まります。音頭を取ったのは、岡庭前村長。

岡庭前村長

 「狭いから」「渋滞が起こりそうだ」「振動や騒音が不安だから」と言っても、それは言葉や感情、憶測にすぎません。
 今回の社会的アセスも、あくまでも、調査に基づいた客観的な数字や情報を出すのが目的です。

 また、このアセスも前回同様

★国や県の要望が強いリニア事業に対して、村の立場ではNOと言えない。むしろ、中央新幹線建設促進期成同盟会の下部組織として県内のほとんどの市町村もリニア推進の立場でいただけにNOを言えるはずがない
だからといって、上記問題を不安視する住民を無視できない

 といった、二面性を抱える問題に対して、

 「リニア計画にNO」ではなく、住民生活に確実な影響を与える残土運搬を社会的に調査するという位置づけで始まりました。

 となると、今後、「リニアにNO」は言わずとも、「俺たちの地域の道路は走るな」との声は上がるかと予想します。


★調査項目はただ一つ

 さて、今回の社会アセスでの調査項目はただ一点ーー「残土運搬での社会的影響を調査する」

 メンバーは有識者2名、住民14人(うち公募委員2名)、知識経験者2名。このうち、知識経験者の一人である岡庭前村長が、この委員会の会長となりました。

 そして以下の10項目について調査を敢行します。

1 12時間方向別交通量調査4か所(7:00~19:00)
2 交差点流入速度調査4か所(7:00~19:00)
3 ビデオ調査7か所(7:00~19:00)
4 渋滞シミュレーションの作成(DVD)
5 花桃の里ヒアリングアンケート調査。年3回(春、夏、秋)
6 昼神温泉アンケート調査。年3回(春、夏、秋)
7 阿智村住民アンケート調査。7月から全生体の16歳以上の住民を対象。
8 村道及び国道沿線の住民20人を対象にヒアリング調査。
9 昼神温泉経営者20人を対象にヒアリング調査。
10 国道沿線等事業者10人を対象にヒアリング調査。

 その結果は報告書に記載されていますが、その一部を切り出すと

★「最も影響が大きいと思われる昼神温泉入口交差点の交通量を見ると、現状の12時間で300台から500台ある大型車両に対して、(残土運搬の)920台の大型ダンプを加えると、およそ(現在の)2.5倍から3.5倍の大型車両が通行することになる
「交通処理場は現況の交通に対する影響がないとはいえ、印象としてはかなり大型車両が増えた感じを与え、住民や観光客には相当大きなストレスを与えることになる」

観光客が昼神温泉を訪れなくなることは大いに想定される

★「大型ダンプの通行が村の将来に与える影響」のアンケートについては、『人口流出・減少』『自然環境の破壊』『居住環境の変化』を怖れる声が約82%を占めた。

★村道の利用は非現実的。道幅も狭く、住民からは大型ダンプが通れるような強度設計がそもそもされていないとの指摘もある。現状では、工事車両の通行は危険。

 これは言ってみれば、とうの昔に予測されていたことでした。

「それが、社会アセスで『裏付け』を得たということです」(岡庭さん)

 そして、アセス委員会は、村と村議会に、以下の報告骨子を提出し、対策を強く求めています。

1 残土運搬車自体の大幅な削減
2 花桃祭り中の残土運搬の中止。
3 国道や村道を通過する場合は安全施設(ガードレール等)や信号機の設置などの安全対策。
4 昼神温泉など大切な観光資源を保全するための協定締結。
(中略)
9 I、Uターン者が移り住む定住政策への阻害要因防止。
10 観光客が事故や渋滞に巻き込まれないようにする対策
11 土曜日や祝祭日及び18時までの工事車両の通行についての再検討



 そして、村が最終的に採るべき道は次の4つに集約されるだろうと予測しています。

1 JR東海の事業を無条件で認める
2 生活や観光等への影響を考慮し、影響負荷の軽減措置を具体的に提示し、対策を講じることを求める
3 JR東海に代替事業を提示する。
4 JR東海のいかなる運搬事業も、村及び村議会として許可すべきではない。


●村はどうする?

 社会アセス委員会は、この報告書を当然、村の「リニア対策委員会」に提出するのですが、今回の調査を機にしたのでしょう、村のなかではいろいろな動きがありました。

 まず、狭い村道「1-20号線」周辺に住む住民が組織する「村道1-20号地権者・利用者の会」が、6月23日、リニア対策委員会に宛てて以下の要望を出しています。これは、4月1日に対策委員会からの提案に回答したものです。

「会のなかでは、リニアそのものに反対する意見、農地を削ってまで道路拡幅に賛成できない意見もあり、大型車と普通車がすれ違える規格の2車線化と歩道の設置を要望する

「(非常口から排出される残土を非常口から上流域や1-20号線で埋め立て可能地の調査をJR東海に要望する)ことは早急に要望してほしい」 → これは、非常口からすぐ近くの上流に残土を捨てれば、住民に危険はないし、ダンプも短い距離の走行で済むといったことを判断したものです。

 ただ、個人的感想では、あの1-20号線を拡幅しようとすれば山を大規模に壊す工事が必要なわけで、それだけで数年かかります。しかも、要望は「2車線+歩道」なので、これはJR東海には相当にハードルの高い要望になりそうです。

 また、リニア対策委員会も、社会アセスの報告を受けて、JR東海に対する質問書を作成したのですが、今、提出のタイミングを見計らっています。この質問書を読むと、とても具体的で、かつ、リニアでの影響に関するすべての質問がカバ-されているように見受けられます。
 ただ提出前なので、私がこのブログで公開するのは許されるものではありません。近いうちに…。


●カギとなるか。清内路地区。

 阿智村の行方を左右するかもしれないのが、非常口予定地周辺の「清内路(せいないじ)」地区です。人口約600人。
 というのは、村内の8地区のなかで、清内路だけが唯一、Iターン者やUターン者の増加により、人口増加を見ているからです。
 2045年には820人、2060年には1391人にまでの人口増が見込まれています。以下、そのグラフです。

阿智村の人口予測 清内路地区の人口予測

 ところが、この静寂な地区を好んで移住してきた人たちが、一日数百台ものダンプカーが走り回る環境で住み続けるかです。

 清内路は、単に、Iターン者やUターン者が多いから人口が増えているのではありません。
 人口が増えるような実践をしているからです。

 清内路では、自治会自らが、2013年からの5か年地区計画を策定し、そこでは「清内路に多くの人が訪れ、多くの人が移り住む地域づくり」が目標設定され、また、清内路の個人や団体で構成される「清内路振興協議会」は2015年12月、その目標実現のために
・自給率の向上と600人の経済圏の具体化
・少子化に対する具体的な施策
・伝統野菜の振興
 を取りまとめ、これを2016年度事業予算に反映するように村に答申しています。 


●清内路選出の村会議員、原利正さん。

 村会議員のなかで唯一の清内路選出の原利正さん(地元生まれ)は、ここにIターンやUターン者が集まる理由を「静かな環境に恵まれていること。そして、やりたいことができるから」と分析しています。
 清内路は人口約600人のうち、約100人が最近5年間でのⅠ、Uターン者です。

「彼らの仕事ですか。たとえば、30代でパン屋を始めた人がいます。彼はパンを売るだけではなく、ゆくゆくは山村留学など、都会の人をここに連れてくるプランをもっています。20代の人で農林業に就く人もいる。その奥さんは古民家を利用して美容室を開いたりして評判はいいです。こうした自主性が新たに人を呼び込んでいる。障がい者施設で働く人もいます」

 だが、その地区の狭い道を残土運搬者が10年間も走ることで、ダンプ街道のなかで暮らすことに違和感を覚える人は、出ていくかもしれないし、新たな移住を拒む人もいる。つまり、村が目指す人口増を村内で唯一実現している清内路が、ひょっとしたら近い将来はモデル地区となりえないかもしれないということです。

 また、清内路はもちろん一枚岩ではない。

「清内路のなかにも、残土を歓迎する人もいる。というのは、村は凸凹した地形で平坦な土地が少ない。それを平坦にできることから、『出た土は宝だ』と思う住民もいるんです。土地さえ平たんになれば、そこを公園や道の駅などにもできると」(原さん)

 ただ、萩の平から排出される残土は約71万立米。東京ドームの約3分の2個分もあるので、それを一地区だけで利用できるとは思えません。
 それら残土もどこに捨てられるのか。これもまったくの未定です。

非常口予定地となる萩の平。無人の出作り小屋がある。 ← 非常口予定地となる萩の平。無人の出作り小屋がある。原議員が案内してくれた。

 近いうちに、村のリニア対策委員会はJR東海に相当に具体的な質問を投げます。
 村はリニアに反対できる立場ではない。
 だが、リニア工事の残土運搬をJR東海の計画通りに受け入れてしまうと、村の稼ぎ頭である昼神温泉郷が影響を受け、村のモデル地区である清内路の人口減が始まるかもしれない。これは村としては絶対に避けなければならないことです。

 村としては、精一杯の条件を突き付けていくことになるのでしょう。たとえば、あの狭い1-20号線の(本当にやれるのかの)拡幅工事、二車線化+歩道設置など。(2014年12月3日の事業説明会で、実際にその要望は出されたが、JR東海は、「代替えルートを検討したが高い橋梁が必要だったり、その先の林道の改修が困難であったり、水源涵養保安林に指定されているので難しい」と回答している)

 今回、時間があれば、清内路のIターン者やUターン者にも会うべきでした。それは今後の宿題とします。
 とはいえ、たった1泊二日の取材でも数万円が飛び、なおかつ、今回の取材はどの媒体でも発表の予定はないという、財布が軽くなるだけの状況から考えると、その今後がいつなのかはまったくわかりません。笑

 このブログを書くだけでもたいへんな時間がかかりました。
 じつは、この翌日は、同じ長野県の豊丘村を訪れています。
 ここの小園地区では、JR東海が予定していた残土置き場計画を断念させました。

 ここと阿智村とが共通するのは

★リニア計画そのものには反対しない。
★だが、村の、地区の、生活を守ることは自治体として、自治会としてやらねばならないこと。それをやる。

 ということです。
 豊丘村のことについては、来週当たりに書きます。今週はもうその時間がありません。

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