土肥元校長の高裁審始まる

 5月15日、土肥信雄元校長の高裁審が始まりました。
 14時半からの公判ということで、高裁に14時15分に着いたのですが、既に傍聴席の数以上の人たちが集まっていて、この日の公判を傍聴することはできませんでした。

 ただ、15時過ぎから、近くの弁護士会館での報告集会でその概要を知ることはできました。

 土肥元校長の第一声は「今日嬉しかったのは、(市村陽典)裁判長が僕の顔を見てくれたことです」。

 これは何を意味するかと言うと、地裁で、あとは判決文を書くというタイミングで、なぜか裁判長が人事異動してしまい、その代わりの裁判長となった古久保正人裁判長が、土肥元校長の最終陳述の間、とうとうただの一度も土肥元校長の顔を見ようとしなかったことがあったからです。

 この時点で土肥元校長は「嫌な予感がする」と感じていたのですが、本当にそうなりました。最低でも非常勤教員採用試験の不合格については損害賠償が認められると誰もが予想していたのが、東京都教育委員会の言い分をほぼすべて認める「全面敗訴」となったからです。

●最低最悪の判決

 この判決を、立正大学の浪本教授は「最低最悪の判決」と評しました。
 一つの理由として、原告の言い分が通らなかったというだけではなく、被告である都教委が主張していないことまでも、裁判所がわざわざ「助け舟」を出して理論補強していたからです。

 たとえば、都教委の教育委員を務めていた棋士の米長邦雄氏について、その思想を嫌っていた土肥元校長は、私的な飲み会の席で米長氏についての感想を冗談も交えながら話したところ、これが「都教委の教育委員を批判した」との密告で都教委に伝わり、土肥元校長は、都教委から「都立高校の管理職である校長にもかかわらず,教育委員の米長氏を批判するとは何事だ。発言の内容は全て米長氏及び都議にも知られている。今後このような発言をすると大変なことになる」と何度も指導を受けることになるのですが、

 東京地裁は、「上記各発言(私的な飲み会での)は、全く私的な場においてされたものともいえない」と、都教委自身が主張していないことを判決文に盛り込んだのです。

 判決文は、さらにこう続きます。

「本件判決発言等について投書によりその内容が都教委に伝えられ,その内容に都教委批判,教育委員批判が含まれていたことなどからすれば,(中略)学校の運営に関する指揮監督,指導助言を行う権限を有している都教委が,その事実確認をすること,そして,その発言内容が(中略)校長として不適切な発言であると指導することは(中略)服務監督権の範囲を逸脱するものとはいい難く,(中略)国賠法上違法な行為と評価することはできない」

 簡単に言えば、

 ★飲み会は私的な場ではなく公式な場とも言える → その公式の場での都教委批判について、都教委が指導するのは当然である → 原告の主張は認められない

 ということです。被告が主張していないことを裁判所がわざわざ主張する。これは、司法の逸脱ではないかと思います。


●業績評価問題への助け舟

 裁判での争点は9点ありましたが、その一つが「業績評価」に関わる問題です。

 2000年から、東京都の学校現場では「教員等人事考課制度」が始まりました。
 これは何かと言うと、校長と副校長が教師の「通信簿」をつけるという制度です。採点方式は「ABCD」の4段階の「絶対評価」。Aが良いで、Dが悪い(元々はSABCDの5段階)。

 ところが、校長が作ったこの結果は、都教委が最終的に「相対評価」に変換するという変な制度です。

 たとえば、教師100人がいるA高校で、S評価が40人、A評価が20人、Bが20人、CとDが10人ずつという結果が出ます。やはり教師100人いるB高校では、S評価が35人、A評価が35人、BとCとDが10人ずつという結果が出ます。等々で、その地区全体では、S評価が250人、A評価が200人、B評価が160人、C評価が50人、D評価が40人の計700人が評価を受けたとしましょう。

 これを、都教委は更に「上位」「中位」「下位」の3段階に相対評価するのです。その配分割合は、30対40対30。

 そこで上記のシミュレーションに当てはめると、700人のうち
上位は210人
中位は280人
下位は210人となります。

 となると、全体で250人いたS評価のうち40人が、中位に流れることになります。
 また、CとDを合わせても90人しかいないのだから、B評価(普通評価)160人のなかからじつに120人もが下位に流れることになります。

 いったい、絶対評価を相対評価に変えること自体が可能なことなのか?

 じつは、この制度が導入される直前、私はこれに関して都教委を取材したことがあります。以下、そのときの取材ノートから。


 3月17日、塚田あゆみ・人事部勤労課人事企画係長にインタビューをした。
――校長が下した絶対評価を、どうしたら相対評価に再評価できるのですか?
「ふたつの評価は目的が違うんです。絶対評価は、管理職が教員に助言・指導するためのもので、相対評価は、教育委員会が頑張った教員に適正な処遇を行うためのものです」
――しかし、絶対評価は学校単位で、相対評価は地区単位。その地区で、SやAの絶対評価が多かった場合、同じSでも下位にランクされる人が出てくるのでは・・。
「絶対評価をきちんとやっていれば、SやDだけに偏ることはないと考えます」
――労働省の調査によると、一般企業の人事部でも、『考課者訓練が不充分』という評価する側の能力不足が54%も指摘されています。まして、人事に素人の校長が適切な評価を下せるでしょうか?
「管理職への考課者訓練は、既に1月に1回実施し、6月と8月にも行います。年3回の訓練を毎年行いますから」
――組合は反対していますが・・。
「組合は、反対のスタンスをとるのが当然ですから。一般教員はそうではないと思います」
――つまり、教員へのアンケート調査をしたのですね?
「していませんが、都内に100人いる教育モニターへのアンケートでは7割が人事考課は必要と回答しています」
 15歳以上を対象に都が公募する、教育問題の意見をきくための制度である。期限は1年。
――人事考課制度はうまくいくと確信しているのですね?
「はい、今日の教育問題へのカンフル剤になります


 そして、カンフル剤とならなかったことは周知の通りですが、都教委は、この自らがしていた「絶対評価→相対評価」の作業を、今度は初めから、土肥元校長も含めた全校長に対して「CDを合わせて20%以上の相対評価をつけよ」と命じたわけです。
 しかし、数学的見地からしてもこれは無理な話なのですが、そこで登場するのが、上記の都教委職員の話にあるような

「絶対評価をきちんとやっていれば、SやDだけに偏ることはないと考えます」

 といった、「どこの学校でも同じ割合の相対評価になるはず」との理論です。これは数学的にありえない話です。

 そして今回、絶対評価で行うべき教員への業績評価を「CDについては20%以上を」との「相対評価」で命じられたことを土肥元校長は強く批判したわけです。なぜなら、CD合わせて例年6%くらいしかいない教員を無理やり20%以上いると評価するわけですから。
 
 ですから、土肥元校長はあくまでも、元々定められている「絶対評価」での提出しか行いませんでした。

 しかし、東京地裁は、

「都立学校の教職員全体において,(中略)バランスを考えて人事配置しているならば,各学校において,業績評価において著しい偏りが生じることは一般的には考え難い。さらに,業績評価制度は調整者(都教委)による相対評価が予定されていることからすれば,著しい評価の偏りは,上記相対評価を困難にすることが考えられる。これらのことからすれば,本件における校長の第一次評価権も前記したところからの制約を免れないのであって,最終的には教職員全体について適切な人事評価がされるという目的のために,都教育庁が校長の第一次評価(絶対評価)に対して一定の指導を行うことはそれが不合理なものといえない(後略)」

 と、これまた都教委が主張していないことをわざわざ理論補強して土肥元校長の訴えを退けているのです。


●報道機関への抑制?

 そして職業柄、私が疑問に思ったのが、判決文は、土肥校長がメディアを通じて自分の主張を伝えたことを批判していることです。

「ニュース23」「朝日新聞」「東京新聞」「原告の支援者のホームペー」等々で発言したことを

「短絡的な発言を外部に対して繰り返す行動もみられ,これらについて,原告の信念に基づく見解として,そのような意見を表明する自由があるとはいえるが,地方公務員(校長)としての原告の上記各言動について,都教委が本件不合格理由のとおり評価することは,その評価権者の裁量権の範囲を超えた不合理な評価ということはできない」

 と、取材に応じたこと自体を暗に批判しているのです。
 少なくとも日本では、「表現の自由」も「知る自由」も憲法で保障されているはず。
 だが、地方公務員だからといって取材を受けるのが誤りかのように述べるこの裁判長。何か意図があるのではと思わざるを得ない判決です。


●予断は許さないが

 どういう結果になるかは誰も予想できません。
 裁判長の印象は「可もなく不可もなく」とのこと。ただ、地裁の古久保裁判長よりはマシなようです。

 日の丸・君が代の強制に関する裁判では、今年の1月と2月に最高裁は「都教委による処分は『文書戒告』までが妥当。それ以上の減給、停職、免職は裁量の範囲外」と判断したのですが、考えてみれば、土肥元校長のように、定年退職後の60歳から5年間働ける非常勤教員の採用試験に不合格というのは、実質の「免職」でもあるわけです。

 この点を高裁がどう判断していくのか、見守っていきたいです。


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非嫡出子とされた我が子

●性同一性障害者の子ども

 前田良さんのご家族に会ったのは2010年の11月。良さん、妻の亜紀さん、そして息子の太郎ちゃん(すべて仮名。当時1歳)の3人です。
 そして、現在、2歳になった太郎ちゃんには「戸籍」がありません。
 
 国が、太郎ちゃんをご夫婦の子どもとして認めないからです。

抱擁 ← 太郎ちゃんを抱っこする良さん


 正確には、「嫡出子」(ちゃくしゅつし。いわゆる結婚した男女から生まれた子ども)ではなく、「非嫡出子」(ひ・ちゃくしゅつし。婚姻関係にない男女から生まれた子ども)としてなら、戸籍には載せると国は言うのですが、前田夫妻は「自分たちの子である」とこの処置を受け入れず、あくまでも「嫡出子」として認めるように訴え、いろいろとその方策を探ってきましたが(後述)、とうとう裁判に訴えることとなりました。

 短髪の良さんの風貌は、分かりやすく言えば、柔道選手に多いジャガイモ型(失礼!)。
  
 良さんが他の男性と少しだけ違うのは、数年前まで戸籍上は女性だったということです。

 良さんは、幼い頃から自分の身体に違和感を覚えていました。いわゆる、性同一性障害です。
 高卒後に就職した警備会社でも制服のスカートがいやで3ヶ月で退職しました。

 そして、2008年2月、自分の気持ちに正直でありたいと、タイのバンコク市で性転換手術を受けます。
 じつは、手術を受ける前から、いつも男の風貌と服装で過ごしていたこともあり、初めて会う人は誰も女性とは思ってもいなかったのですが、思いを寄せた亜紀さんには本当の自分を打ち明けます。

 当然驚く亜紀さんですが、悩んだ末、つきあおうと決めました。最終的にそう決めた理由は「彼が好きだから」ということです。
 
 そして、良さんは、手術の翌月には女性から男性への戸籍変更を行い、さらにその翌月には亜季さんと入籍します。
 つまり、この時点では、国が夫婦として認めたということです。


●最高の一日

 ただ、男性になったとはいえ、いわゆる生殖能力は有しないため、子どもがほしかった夫妻は、亜季さんが第三者の精子の提供を受けることで妊娠。

 そして2009年11月、長男の太郎ちゃんが誕生します。
 看護師の「お父さん、どうぞ抱いてください」の声に促されてわが子を抱くと、羽のように軽いのに一所懸命に呼吸するその姿に、良さんは感動のあまりに泣いたといいます。このときのことを良さんはこう語ります。
 
「もうすべてに感謝しました。妻には、僕と出会ってくれたこと、結婚してくれたこと、こうして子どもを作ってくれたことに。そして、僕も今日から本当に父親として生きるんだって思うと、ああ、生きていて良かったと思いました」


●「非嫡出子としてなら受理できる」 

 その翌日、良さんは、その幸せの絶頂から悲しみの底に沈みます。

 出生届の提出に赴いた兵庫県宍粟市役所で、担当職員が、提出された出生届を手にすると「ちょっと待ってください」と奥に引っ込み、戻ってきてからこう告げたのですーー「前例がないため、お子さんを嫡出子として受理できません」

 この職員は、良さんが性転換していたことを知っていました。いや、知らないとしても、戸籍を見れば性別変更の事実がすぐにわかるので、同じ結果だったと思いますが、職員は、奥に引っ込んだときに法務省に電話していたのです。法務省はこう説明したそうです。

「確かに、戸籍上は男性であっても、生物学上は女性なので、嫡出子としては認められない」

 この扱いは理不尽なものです。
 なぜなら、生まれつきの男性でも、「生殖能力がない」ために、妻が第三者の精子提供で出産した子どもは、戦後1万人以上もいて、例外なく嫡出子として受理されているからです。
 これは一つの理由として、役所の窓口で、誰もわざわざ「精子提供を受けました」と言わないこともあるかと思います。つまり何も言わなければ、嫡出子となる。

 両者の違いは、肉体的に生来の男性であったかどうかだけです。民法は、法的に結婚した夫婦の子どもは嫡出子と定めているのに、法の番人である法務省は、性転換した人には、「解釈」でもって、良さんを父親と認めなかった。

 いずれにせよ、精子提供による嫡出子は戦後1万人以上も生まれていますが、これで誰が困るのでしょう? 良さんはこう訴えます。 

「僕が父親になることで誰が困るのでしょうか?!」

 前田夫妻は闘いを決意します。

僕は父親になる ← 前田夫妻が作った冊子「僕は父親になる」の表紙



●千葉法相との面会

 夫妻がまず行ったことは、当時の千葉けい子法務大臣への直談判です。
 10年2月、これは実現し、弁護士でもある千葉法相は、良さんの訴えに「嫡出子として認める方向で考えたい」と一定の理解を示しました。
 千葉法相はその後、「この件を臨時国会に出したい」と仲間の議員に伝えるなど、やる気はあったようです。

だが、法務省内部の見解を変えられないまま職を辞してしまいました。

 千葉法相への直談判を仲介したのは、同じ民主党の井戸まさえ国会議員も、自身の子どもを1年間も無戸籍状態に置いたことを経験しています。

 井戸議員は、前夫との離婚後、新夫との間で懐妊し生まれた子どもの出生届を出したその日の晩に、役所から

「民法772条2項により、離婚後300日以内に出産した子どもは前夫の子どもになる。出生届は受理できない」

との連絡を受けました。

 間違いなく現在の夫の子供であることから、井戸議員は、裁判で闘い、ようやく1年をかけてそれを認めさせることを実現したのですが

「子どもを1年間も無戸籍に置いておくのは本当に辛い。無戸籍のまま学校はどうなるの、就職できるのって不安な毎日でした」

 と振り返ります。

 前田夫妻は、その後も署名活動や講演などを積極的に行い、この問題の理解に努めますが、事態がまったく進行しないことに、今年3月、東京家庭裁判所に対して提訴をしたのです。


●他にも数組いる

 非嫡出子でも我が子にする方法はあります。それは「養子縁組」することです。

 ただ、良さんはこれは受け入れませんでした。

「太郎は僕たちの子です。だのに、わざわざ養子にするのはおかしい」

 とはいえ、やむにやまれぬ手段として、この方法を受け入れる方々もいます。

 法務省によると、前田夫妻と同じパターンで子どもをもった夫婦は、把握しているだけで6~7件あるようですが、どの夫婦も悩み、この「養子」という方法をとる人もいるようです。

 10年11月に前田夫妻が東京で講演をしたとき、やはり同じパターンで(夫は元女性、妻は精子提供で妊娠)、あと数ヶ月で出産するというご夫妻がいました。話を聞いてみると、「戸籍に関してはどうしていいのか分からない。前田さんのように闘えるのかもわかりません」と悩んでいるようでした。


●アクアビューティからのメッセージ

 近年、タイで性転換手術を受ける日本人は増えています。その背景の一つには、渡航前の事前説明、タイのバンコク国際空港に到着してから、ホテルや病院への送迎、日本人スタッフの毎日の付き添い等々を行う「アクアビューティ」社の存在があります。

 同社の開業は2002年ですが、ここからタイのバンコクに向かう人たちは1000人を越えました。

 良さんもその1人であることから、同社は、その闘いを支援するために、以下のお願いを出しています。


 ★性同一性障害者の子の嫡出子問題についてカンパのお願い

 平成21年11月に、性同一性障害者と妻との間に人工授精でもうけた子を法務省は「嫡出子とは認めない」との見解を示しました。

 嫡出子とは、法律上婚姻関係にある男女を父母として生まれた子。戸籍には夫婦の子として記載され、そして、法律上婚姻関係にない男女から生まれた子が非嫡出子(婚外子)で、母親の戸籍に入り、父親の名は記載されません。
 他人の精子を使う非配偶者間人工授精(AID)は性同一性障害者に限らず夫の生殖能力に問題がある場合の不妊治療をして行われています。遺伝子的な父子関係がないにもかかわらず、一般的には嫡出子として受理されています。

 どうして、性同一性障害者の夫婦だけは認められないのか?
 差別ではないか?
 同じ扱いをするべきだと思い、これまで法務省に対し活動してきました。
 しかし、法務省は何もしてくれません。このままだと、同じような夫婦が増える一方です。性同一性障害者の夫婦に子供ができ、みんなが嫡出子として認められ、父親として扱われるように国に対し、訴訟を起こすことにしました。

 そして、この訴訟を進めるためには多額の弁護士費用などが必要で一当事者の力では及びません。
 今後同じ問題を抱える方々への道を広げる意味でも皆さまのお力添えが必要です。
 どうか力をお貸しください。1人1人に少しずつの力をお貸し頂ければ、それが沢山集まって大きな支えとな
ります。

 *カンパは一口千円から募ります。どうか、よろしくお願いいたします。

 カンパにご協力頂ける方、お手数ですが、下記にお振込みよろしくお願いいたします。

銀行名    ゆうちょ銀行
口座番号   64021591
記号     14120
名前     ジーアイディーカゾクノカイ 

他金融機関からの振込みの場合
【店名】 四一八
【店番】 418  【預金種類】 普通預金  【口座番号】 6402159   

KAZOKUの会

(ジー・アイ・ディー家族の会とは、良さんが設立したNPOです。GID=性同一性障害。
 GID本人だけではなく、そのパートナーの意見交換や、ふれあいの場を目指す。AID《非配偶者間人工授精》で子供を授かり、生まれてきた子供、性同一性障害者を親にもつ子供達同士も同じように話し合える場になればと考えている。 HPは http://www.geocities.jp/gid_ka_zo_ku/index.html )

父になる ← 「僕は父親になる」の最後のページ。良さんの決意が述べられている。画面では読みにくいので、以下に全文を。 僕は今、息子の「父親」として暮らしている。毎日お風呂に入れ、できる時にはオムツを替えたりご飯をあげたりして世話をする。休日は家族3人で遊びに出かける。子どもを育てる愛情は、誰にも負けない。何気ない日常の、それでいて貴重は幸せをかみ締める。僕が幸せの頂点と不幸のどん底を味わってから1年。小さな命は、今日も元気に鼓動を奏でている。その隣には妻が、そして僕がいる。僕らには毎日笑いあって暮らし、息子を抱きしめながら眠る。いつかくる、僕らが「本当の家族」になれる日を夢見ながら。僕は 前へ 進む。


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自爆営業だけじゃない。郵政労働者の交通事故

●自爆営業だけではない

 本ブログでは、郵政職員の自爆営業について何度か書いてきました。テレビ報道の影響もあり、多くの方に事実を知ってもらえたことはよかったと思います。
 
 ただ、郵政職員にまつわるのは自爆営業だけではありません。
 郵政職員にまつわる問題をたった一言で言い表すとすれば「売上増と経費削減のための犠牲」に尽きます。つまり、自爆営業も、40億枚弱も印刷した年賀状などを一枚残らず売ろうとする施策の犠牲の一つに過ぎません。
 郵政労働者には、まだまだ犠牲があるのです。

 その一つが、交通事故です。郵政職員が起こす交通事故は、全国平均の5倍の頻度だと言われています。

 郵便物は、ご存知の通り、主に、50ccのオートバイ(いわゆる原付)、90cc以上のオートバイ、そして軽ワゴン車の3つで運ばれています。

 ここで簡単なクイズです。

 原付に積める最大重量は何キロでしょうか? そして出していい速度は最高何キロでしょうか?
 
 答えは、どちらも30です。つまり30Kgと30Km。しかし、これを守っている郵政バイクは皆無でしょう。もちろん、一般社会においても、時速30キロを守っている原付は少ないですが、郵政職員の場合は、それを守りたくても守れない事情があります。

 あまりにも膨大な郵便物の数々。そして、残業が許されないからです。

 つまり、膨大な郵便物を時間内に配るためには、
★朝の定時前に出勤し
★昼休みもろくにとらず
★休憩時間も休まず  働くしかありません。もし残業に食い込めば、

★定時に仕事が終わったと申告する(たいていの郵便局には、信じられないことにタイムカードが存在しない!)。つまりサービス残業。

 そして

★スピード違反。
 これなくして、郵政労働者は上に決められた時間内に配達をすることはできません。
 

●「僕のせいだけじゃない!」
 この郵政労働における交通事故を巡り、08年、関係者の関心を引く裁判が起こされました。

 岡山県の郵便事業会社岡山支店の非正規職員Hさん(当時29)は、4年間で4回、郵便配達中に接触程度の軽微な交通事故を起こしたのですが、それを理由に、08年度末、期間満了に伴い、解雇されました。

 だが、Hさんの偉かったのは、たいていの人なら「俺のせいだ」とうなづいてしまうところを、「確かに、事故を起こした私も悪い。だが、私だけの責任に帰するのはおかしい。事故が起こるような労働環境こそが問題なのです」と、雇い止めの無効を訴え、08年5月に提訴したことです。

 Hさんはわたしにこう語ってくれました。

「会社の人員削減策で現場は人が足りません。だから、原付に積む郵便物も法定の30Kgを軽く越え、スピード違反も常態化しています。岡山支店ではある半年間で30件もの郵便バイクの事故が起きているんです。一言で言うなら、常に急かされています」

 そして、09年9月、Hさんは裁判でこう証言しました。

「今なぜここを走っているのだろうといったことが頻繁にあったので、瞬間的な眠りに入っていた可能性はあると思います。残業もあったので疲労が蓄積していたのが原因だと思います」

 結局、この裁判は岡山地裁では敗訴しますが、高裁では逆転勝訴します。

 判決文の一部を紹介します(要約)。

「本件雇い止めについては、控訴人に交通事故の繰り返しがあったとはいえ、それには、被控訴人の事業運営上の問題点も絡んでおり、控訴人は十分改善可能であり、しかも控訴人の懲戒規定及び従来の処分の実情に照らしても、到底雇い止めないし解雇すべき場合には該当しなかったこと、控訴人の職務遂行の評価は良好であったこと(中略)から、本件雇い止めは、合理的理由を欠き社会通念上相当とは言えないものであって、(中略)雇用関係の継続を認めるべきである」

 とはいえ、これで一気に全国の郵政労働者の労働環境が改善したとはまだ断言できません。

 たとえば「郵便局」「交通事故」で検索すると、多くの事例を(you tubeでも!)見ることができます。
 私がHさんと出会った09年でも、集配中の職員が、6月には島根県で車にはねられ、7月には北海道で列車と衝突し、11月には千葉県で車にはねられ死亡。10月には、山形県でトラックにはねられ意識不明…と頻発していたのです。

 そのなかで、強い同情をもって受け止められたのが、静岡県の配送職員Yさんの事例です。
 Yさんは、2日連続で深夜勤務をこなし、食事も仮眠もコンビニの駐車場で取っていたという激務を続けていたのですが、疲労がピークに達し、とうとう、運転する軽車両が軽トラックと正面衝突したのです。幸い、死には至りませんでしたが、Yさんの事例は、それこそ、常時「サボるな! 早く配達しろ!」と上から急かされる毎日の犠牲と言えます。


「時間を守れ!」
 
 静岡県某郵便局の正社員Cさんもこう語ります。
「数年前から、郵便局が宅急便のサル真似で時間指定便を始めました。朝10時までとの荷を預かれば現場は必死で、スピード違反は当たり前になりました。だのに、ちょっとでも遅れると上司は『時間を守れ!』と怒鳴るだけ。なぜかって? 遅れは残業につながる。そうなると『余計な』人件費が増える。そうなると、その上司がもっと上の部署から叱責されるからです。『経費削減をしないのか!』と。本当に、毎日毎日、叱責や罵倒を浴びていると、僕たち、萎縮しちゃうし、気持ちが急いてばかりで、仕事から安全性がなくなります」


●首切りマニュアルの存在

 では、労働者に残業代なしの膨大な作業を押し付け、少しでも仕事が遅い社員への罵倒や叱責は全国的なものなのでしょうか?

 どうもそうらしい・・と私は思います。

 というのは、ある郵政関係者から

「これ、『首切りマニュアル』だから読んでみてください

 と言って渡された資料があります。

 正式名称は「期間雇用社員雇用マニュアル」

 期間雇用社員とはいわゆる非正規社員です。

 一般社会では3割が非正規社員ですが、郵便事業会社においてはじつに6割が非正規です。つまり、大多数の社員をターゲットにおいたこのマニュアルには何が書いてあるのか?

 読んでみたら、びっくり。本当に首切りマニュアルでした。
 
 作成したのは、郵便事業会社人事部。民営化後の08年8月に作成したものです。

 抜粋すると…。

「会社経営は厳しい状況にあり、特に人件費の効率的使用は会社経営の成否を決する重要な課題となっています。そのためには、(中略)雇用調整を実施していく必要があります」

「民営分社化による事務増等に伴い、非正規社員給与や超勤手当てが増加したところです。この傾向は平成20年度に入ってからも継続しており、人件費6月期累計では15億円超過している状況で、(中略)より一層の人件費削減に取組んでください
 と各支店に、人員削減や残業代抑制の実施を指示しているのです。

 さらに、
雇用契約を反復更新することは、会社経営にとって大きなデメリットとなります」
 と、雇い止めの徹底を促し、具体的な雇い止めの方針も書かれています。

退職は、契約社員Ⅱやパートタイマーを中心に勧奨する」(経験の浅い人を狙う)
「労働条件の変更に応じられない者は『雇い止め予告』を実施し、雇用契約期間の満了日をもって雇用契約を終了させる」等々。

 すさまじく残酷な会社です。正規であれ非正規であれ、それを生きる術として生活している人が大勢いるのに、なかには家族もいるのに、「無職になれ」と言うも同然のこのマニュアルにはおそろしさを感じます。

 これもまた、「経費削減」の一環なのです。

 自爆営業、交通事故、首切り。どれも根底では「経費削減」でつながっている問題です。

 ときどき、夜になっても郵便配達をする職員さんを見かけるときがありますが、残業代をちゃんともらっているのかなと気になります。

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山を走る豚。えこふぁーむの挑戦

●廃品回収業者が始めた養豚業

 今朝、NHKテレビの「うまいっ!」で、鹿児島県の農業生産法人「えこふぁーむ」の「山を走る豚」を取り上げていました。
 この放牧豚は私も取材したことがあります。

 山の中をドドドドと走る豚を実際に目にするとある種の爽快感を覚えます。と思えば、ある一群は泥のなかでノンビリと昼寝をしている。

 「えこふぁーむ」の中村義幸社長の本来の仕事は廃品回収業。社名は㈱トップライン。
 それがなぜ養豚、しかも放牧にまで手を出したのか?

 妻であり専務のえい子さんは、実際にごみ収集に当たってきた人ですが、こう説明してくれました。
「ゴミのなかでも一番ずっしり重いのは生ゴミなんです。量も膨大。これをなんとかしたいと思っていたら、2001年に『食品リサイクル法』が施行されました。生ゴミをリサイクルしなさいとの法律ですが、そのときにピンと思い出したのが、小さいときに残飯で飼っていた子豚だったんです」
 
 そこで、中村夫妻は知人から子豚2頭を購入し、こともあろうに、えい子さんの母親の名前をつけ、まあ、それはどうでもいいのですが、残飯を与えると2頭はきちんと育ち、無事出荷されていきました。

 これを機に、さらに20匹を仕入れるのですが、ここで横井愼治さんが事業に参画したのがじつに大きな力となりました。
 横井さんは地元の大手豚肉加工会社に勤務していましたが、自分たちの豚肉製品が最終的に誰が食べるかわからない流通システムに疑問を抱き、また、私たちの多くが想像する「鹿児島の黒豚=健康豚」ではない実態を見ていました。

「ほとんどの養豚業者は、狭い豚舎に豚をぎゅうぎゅうづめ。だから豚はストレスで互いの尻尾を噛み切るので、あらかじめ尻尾も牙も抜いてしまいます。そして、抗生物質とワクチンと配合飼料で豚を無理やり太らすのです」

 そこで横井さんは、せめて自分なりの養豚をやりたいと、出勤前の時間を利用して、40頭ほどの豚を放牧させていたことがあるのです。

 そういうことで、えこふぁーむでは、「牙抜き」と「尻尾切り」を行いません。また、「味が落ちる」との理由ですべての養豚業者が行う「去勢」も行いません。

「今の養豚のほとんどは工業豚です。味のためとはいえ、去勢するのは可愛そう。オスはオスとして生きたいのですし」(中村社長)

 豚舎はありますが、それは生まれたての子豚と母豚のために用意したもので、広さはゆったりとあり、木材チップを敷き詰めているため清潔が保たれています。

●荒山が地味豊かな大地に

 えこふぁーむが放牧を実践して、中村夫妻が驚いたことがあります。
 荒れた杉山があっという間にきれいな大地に生まれ変わることです。というのは、豚は、鼻で土を掘り返しながら、土のなかの虫や植物を食べて歩き回るので、幹の細い杉であれば豚に倒され、さらに豚の糞尿で土はどんどん肥えてゆくのです。

 えこふぁーむの事業を整理すると

★地域の各施設(病院や老人ホームなど)で出た残飯を真空乾燥機で加熱処理し単味飼料を加えて豚の嗜好と栄養を配慮したものに加工。

★子豚を豚舎で飼育。母豚の母乳で育てるが、母豚などにはエサをあげる。

★ある程度大きくなった子豚は、放牧地に放す。

★豚舎で使う木材チップには糞尿が混ざるが、数ヶ月熟成させると堆肥になり、それを豚が耕した大地にすき込めば、再び豚の好きな野菜などを作れる。


●効率は悪いが
 
 とはいえ、これは普通の養豚業者から見れば極めて効率の悪い方法です。
 普通は3キロの餌で600~900グラム太るのに対し、えこふぁーむでは運動量が多いため、400~500グラムしか太りません。しかも、去勢していないので、初期の頃は「どんな味になるのか想像もつかなかった」そうです。

 そこである日、中村夫妻は、その豚肉をトップラインと関連会社の社員70人に何の説明をせずに食べさせたのです。すると、去勢していな豚につきものの「臭み」についての声は聞かれず、むしろ「独特の味がする」「弾力がいい」と評判で、詳しい経緯は省略しますが、その後は日本各地のレストランで使用され、数年前、世界首脳が集まった洞爺湖サミットではその食卓に添えられたのです。


●ファンド

 さて、ここからが本日書きたいことです。
 ただ、これをはじめた初期の頃の悩みは、飼育頭数が少ないため、事業が採算的に軌道に乗らないことでした。もっともトップラインの売り上げを利用する手はありますが、それもいつまでも続きません。

 そこで思いつくのは金融機関の利用ですが、この養豚業では「非常識」な事業にカネを貸してくれるところなどあろうはずもありません。

 そして2004年、中村社長がインターネットで見つけたのが「apバンク」でした。

 apバンクは、音楽家の坂本龍一さん、櫻井和寿さん、小林武史さんの3人が資金を出し合い設立し、環境に優しい事業、社会的事業などに年利1%で融資を行うという「NPOバンク」です。

「当面はトップラインの資金を使ってもいい。でも私は、従来の金融機関にはない、お金が誰にどう使われ、それが再び循環するという主旨に賛同して、是非、融資を受けたいと思ったんです」

 中村社長はこれに500万円の融資を依頼。そして審査の結果、無事融資を受けることができました。
 そして、中村社長がびっくりしたのが、その後、櫻井さんが視察に来たことです。
 櫻井さんが長靴をはき、豚と一緒に歩き、豚を抱く。「自分が働いている分以上のお金が入ってくることの心苦しさ」を覚えていたという櫻井さんにとっても、apバンクを始めてみて、目の前で自分たちのお金が確かに社会のために循環している事実を確認できたのは大きな喜びとなったのです。

apバンクは、毎年夏に3日間の野外ライブ「apバンクフェス」を開催しますが、会場内では、えこふぁーむだけではなく、ap bankから融資を受けたすべての団体のブースが並びます。


●新しいファンド

 そして2010年、えこふぁーむは新たなファンドを受けることにしました。
 当ブログでも何度か紹介しているミュージックセキュリティーズ㈱が運営するファンドを利用することにしたのです。

 これは、子豚100頭を育てる経費と借地料金、さらに豚が開墾した土地に西洋野菜を育てるための諸経費などの資金を募集したものです。
 一口3万円、351口の募集(1053万円)はすぐに完売し、5年間の運営の後、事業が順調に推移すれば、元本に加え分配金の配当もあります。
 そして、出資者への特典は、

 ・放牧豚しゃぶしゃぶ用薄切り肉、・放牧豚加工品セット(ソーセージ、生ハム)、・えこふぁーむ隣接レストランホテル「森小休」宿泊ご招待(2食付、交通費別途)、・生ハム工房見学ツアーご招待
 と盛りだくさん。

 同様のファンドは2011年にも募集され、こちらも完売。

 2012年の募集は? わかりませんが情報を待ちたいところです。


●地域も巻き込む

 えこふぁーむを始めた当初は、地域住民は「豚の放牧反対!」との立て看板をあちこちに設置していました。ところが今、その事業が認められると、地域の子どもたちの見学も増えてきました。

 中村夫妻には夢があります。

「せっかく豚さんが耕してくれた土地です。こんどはここに広葉樹林を植えたい。ええ、子どもたちと一緒に。
広葉樹林なら、秋にどんぐりを落とし、それを豚さんがまた食べる」

 エコファームの活動は、単なる養豚に収まらず、今では、環境教育の場でもあり、お金の循環を実感する場で
もあり、本当に人に求められる事業とは難なのかという経営哲学を学ぶ場でもあります。

 中村社長は、たまたま私と同じ北海道出身ですが、今後とも応援して行きたいと考えております。

 おそらく、NHKを見て、えこふぁーむへの問い合わせが殺到しているかと思います。じつは、もう数年も前から同社のHPを見て、えこふぁーむへの見学者は絶える事がないのですが、中村社長はそれを意に介さないようです。
 
「多くの見学者や研修生が来てくれるのはいいことです。人との輪が増えていくのは嬉しい。私たちに休日はなくなりましたが(笑)」(義幸さん)


 ちなみに、2006年に私が書いた本に、上記、apバンクやミュージックセキュリティーズのことなどが書いてあります。

「新しい貯金」で幸せになる方法―あなたの生活を豊かにする「NPOバンク」「匿名組合」のススメ「新しい貯金」で幸せになる方法―あなたの生活を豊かにする「NPOバンク」「匿名組合」のススメ
(2006/05)
樫田 秀樹

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タイトルがやや怪しいですが、日本で活発になりつつある、市民による市民のための金融機関「NPOバンク」と、いろいろな事業を市民の出資で支え、しかも、出資者には分配金の配当もあるかもしれない「匿名組合」という、新しいお金の流れについて書いた本です。従来の銀行貯金や郵便貯金が動脈だとすれば、NPOバンクや匿名組合は日本経済の静脈を元気にするシステムです。事例が満載されています。



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橋下徹氏がわからない5・不起立者をどう処分する?

●不起立の処分に取り消しの判決

 本日、4月19日、東京都八王子市の元・夜間中学校教師の近藤順一さんの東京地裁での判決が出ました。

 近藤さんは、これまで、卒業式などで不起立をしたために、東京都教育委員会から4回処分されています。

1.戒告
2.減給1月
3.減給6月
4.停職1月

 これに対し、近藤さんは、
 ★都教委が発した「日の丸に起立し君が代を斉唱すべし」とした通達が違法であり、
 ★これを受けた校長が個々の教員に、起立と斉唱を命じる職務命令も違法である

 として、処分の取り消しを訴えたのです。

 今回の裁判が注目されたのは、なんといっても、これが、最高裁判所が1月と2月に続けて出した「不起立への処分は『戒告』が妥当であり、それ以上の処分は裁量権の逸脱」との判断のあとの最初の判決だからです。

 つまり、地方裁判所が、最高裁判所の判断に従うとするなら、近藤さんの4つの処分のうち、2~4は取り消されることになります。

 そして果たして、本日、そういう判決が出されたのです。

 このことから、今後、東京都内の公立学校の教職員は、複数回の不起立をしても「戒告」どまりになることがほぼ見えてきました。

 ちなみに、この判決において、裁判所は『通達』と『職務命令』は合憲であると判断しました(これも最高裁の判断に倣ったものです)。これがある限りは「戒告」もあることを不服として、近藤さんは控訴を決めています。

確かに「戒告」はもっとも軽い処分ではありますが、じつは、昇給が抑えられたり、退職後は再任用されない可能性も含むだけに、それでよしとはできないと主張しているのです。

 ちなみに、東京都では「時効5年」が一般的なようです。これは何かと言うと、最後の不起立から5年たてば、その不起立は再任用拒否の材料にはならなくなるということです。

 だが、これからは分かりません。というのは…。


●都教委の締め付け

 今年3月の、東京都内の卒業式では3人の教師が不起立をしました。2人が2回目、1人が4回目の不起立です。昨年だったら間違いなく「減給」や「停職」の処分が下ったはずですが、やはり、最高裁の判断に従って、3人とも「戒告」だけの処分ですみました。

 だが、都教委は、最高裁の判断に従うと同時に、教職員を何が何でも起立させるための新たな手を打ってきました。

 不起立者に対して7月に行われてきた再発防止研修を4月5日に行い、さらに3回の研修を科すという通知を発令したのです。
 これは、度重なる研修を科すことでの精神消耗を狙った策に他なりません。

 だが、その1人、田中聡史教諭は「不起立をしなかったときもあったが、今は、自分の気持ちに正直に不起立をしている。とてもすっきりしている」と、都教委の研修を怖れている様子はありません。

 ちなみに、田中先生は4月9日の入学式でも不起立を行いました。おそらくはまた「戒告」処分が発令されるかと思います。

 私は、3月下旬に、田中教諭の卒業式のある学校前で待機していましたが、中から出てきた生徒の1人がこう言ったのがとても印象的でした。

「強制で人を従わせるのはよくないことです。抗議の意味もこめて、田中先生は不起立した。そういう先生ガいたことが嬉しい。あとで田中先生に会ったら『ありがとうございました』と伝えてください』


●大阪はどう出る?

 今気になるのは、あの橋本市長がどう出てくるかです。

 大阪府では、教員が3回不起立をしたら免職との規定を定めています。つまり、『戒告』→『減給』→『免職』。

 だが、最高裁判所の判断は、全国の地方裁判所と高等裁判所に影響を与えています。

 なので、もし今後、大阪府で3回の不起立で免職になった教師が出てきても、裁判を起こせば、処分が取り消され、現場復帰が可能になるかもしれません。

 それ以前に、大阪府自身が「戒告」どまりの処分ですますかもしれませんが、それは想像の域を出ない話です。注視していきます。

 
●他の道府県ではどうなのか?

 さて、ここで東京と大阪以外に目を向けてみると、どこもこの2つの都府ほど厳しい通達や条例は定めていません。
 では、教師は卒業式などでは自由に不起立をしているのか? 答えは否です。
 東京や大阪のような酷い処分がないのにもかかわらず、ほとんどの教師は不起立をしていません。なぜか?

 私はこれを、九州のある教師に尋ねてみました。答えはーー

「いやあ、そういうことやると、結局、保護者や同僚から異端視されちゃうんです。というより、異端視はされないのに、そう思っちゃう自分自身がいるわけです」

 いかにも、周囲の顔色を伺って行動する日本人らしい答えです。

 つまり、元々、不起立をする教師は全国的に少ない。それは東京でも大阪でもそうです。そうであるのなら、一律に網をかけるやり方ではなく、個々に対応すればいいだけの話なのではと私は思います。

 なぜ「免職」という、その人の人生を破壊するような手段まで講じて、無理やりに起立をさせるのか。「維新の会」が何を目指すのか、少し見極めていきたいと思います。


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本名、樫田秀樹(かしだひでき)。
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